運命が織りなす古典と現代のダブルビル、地主薫改訂振付『ラ・バヤデール』より婚礼の場と遠藤康行の新作『Symphonie du Destin』──地主薫バレエ団
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ワールドレポート/大阪・名古屋
すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna
地主薫バレエ団
地主薫;改訂振付(『ラ・バヤデール』より婚礼の場)、遠藤康行:振付(『Symphonie du Destin』)
地主薫がバレエを始めて60年、バレエ生活の還暦を迎えての公演。倉永美沙や奥村康祐、金子扶生といった世界のプリンシパルを育てて来たとともに、振り付けたオリジナル作品が2度、文化庁芸術祭大賞を受賞するなど充実した活動を重ねて来た地主が、自らの運命について思いを馳せ、"運命"をテーマに据えて構成した。
『ラ・バヤデール』より婚礼の場
ニキヤ:山﨑優子
撮影:尾鼻文雄(officeObana)
ダブルビルでまず上演されたのは、地主薫改訂振付の『ラ・バヤデール』より婚礼の場。ニキヤ、ソロル、ガムザッティ、それぞれの運命が交錯する場ということで選んだという。ガムザッティを踊ったのは葭岡未帆。小柄で可愛らしい雰囲気を持つ彼女だが、大きな踊りで、ガムザッティらしい強さを表現、グラン・パ・ド・ドゥでのテクニックもさすがだった。また、ソロルの宗近匠は伸びやかで素直さが感じられる踊りが良く、今、伸び盛りであることを感じる。そして、ニキヤの山﨑優子、秀逸な蛇の踊りだった。しなやかな動きに切なさが溢れる、ドラマティックで心の奥の叫び声が聞こえて来るような名演。彼女はどんどん良いダンサーになっているように感じる。
脇も良いダンサーが多く、「黄金の神像」の巽誠太郎は美しい筋肉での高度なテクニックが素晴らしい。その周りで踊ったジュニアたちもなかなか良くて、将来が楽しみ。「つぼの踊り」は、奥村唯、可愛らしくコミカル。通常、小さな女の子2人と踊るが、今回のヴァージョンでは、ミツバシ姿の子供2人と、壺の中はどうやらハチミツらしい。また、太鼓の踊りの中心は近藤有紗、金兌潤、趙載範で荒々しくダイナミックに盛り上げた。
ガムザッティ:葭岡未帆
撮影:尾鼻文雄(officeObana)
黄金の神像:巽誠太郎
撮影:田中和佳子(officeObana)
『Symphonie du Destin』
Vie:奥村唯(中央)
撮影:田中和佳子(officeObana)
そして、後半は遠藤康行の新作『Symphonie du Destin』。ベートーヴェンの「運命」の4楽章全てを使ってのコンテンポラリーだ。Distin=運命を踊ったのは奥村康祐、そして主人公と言えるVie=人生を踊ったのが奥村唯。Vieが運命に呑み込まれていく第一楽章、穏やかな回想として子供たちも登場して幼い頃のバレエへの憧れを描いた第二楽章、試練にぶつかる第三楽章、そして、そこから解放される第四楽章。それぞれが、建築家・長谷川匠による動く美術とともに表現された。
金のスーツ姿のDistin、奥村康祐は本当に役によって豹変するダンサーで、優しげな王子がぴったりかと思いきや、まったくそれに留まらない。この作品では、男性らしい強さ、荒々しさを存分に観せてくれた。そして、予想以上に素晴らしかったのが銀の衣裳でVieを踊った奥村唯。以前、人魚姫などで薄幸の、か弱い姿が似合っていた彼女だが、ここでは、運命に翻弄される姿から、あがき、力強く立ち向かい、そして第四楽章では強い意志が感じられるしっかりとした目線で、これから向かう人生の喜びを自ら引き寄せることを確信するような、とてもポジティブな表現を観せてくれた。こんな迫力を出せるダンサーだったのだと感嘆。
この作品に出演したダンサーたちは、群舞の隅々まで実力派が揃っていることが感じられ、コンテンポラリーは不慣れなバレエ団と聞いていたが、クラシックで積み重ねた基礎をもとに、ここまでの踊りができるのだと実感。とても見応えのある作品に仕上がっていた。
(11月8 フェスティバルホール)
『Symphonie du Destin』
Destin:奥村康祐(上)、Vie:奥村唯(前方)
撮影:田中和佳子(officeObana)
『Symphonie du Destin』
Vie:奥村唯(中央)
撮影:田中和佳子(officeObana)
『Symphonie du Destin』
Destin:奥村康祐
撮影:田中和佳子(officeObana)
『Symphonie du Destin』
Destin:奥村康祐、Vie:奥村唯
撮影:尾鼻文雄(officeObana)
『Symphonie du Destin』
Destin:奥村康祐、Vie:奥村唯
撮影:尾鼻文雄(officeObana)
『ラ・バヤデール』より婚礼の場
撮影:田中和佳子(officeObana)
『ラ・バヤデール』より婚礼の場
太鼓の踊り:近藤有紗、金兌潤、趙載範
撮影:田中和佳子(officeObana)
『ラ・バヤデール』より婚礼の場
ソロル:宗近匠
撮影:尾鼻文雄(officeObana)
『ラ・バヤデール』より婚礼の場
ガムザッティ:葭岡未帆、ソロル:宗近匠
撮影:尾鼻文雄(officeObana)
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