そして『ドン・キホーテ』。タイトルロールは岩本正治。さすがの落ち着いた演技力で全体を引き締めた。岡本博雄がドン・キホーテ役を踊った時のことを覚えている関係者は多いようで、また、岩本も岡本に教えを乞うた人、今回、岡本が憑依したようと感慨深く魅入った関係者も多い様子だった。サンチョ・パンサは有馬和弥、これはかなり意外なキャスティングだったが、よくこなしていた。
そして主役、林田まりやがキトリにぴったり、本当にあたり役。自由自在に動くかと思える身体で高度なテクニックも心の底から楽しげに。観ていてとても爽快なキトリ。バジルは青木崇がさすがの安心感を感じさせて演技も細やか。メルセデスの江川由華は、さすがの大人の魅力。エスパーダの宗近匠が可愛らしい弟分のようにも見えるような。2人とも場面を昂揚させる踊りで、こんな組み合わせも良い。
ジプシーは橋口真貴が落ち着いたしっとりとした魅力で中心を踊り、夢の場へ。美しいスタイルで魅せた加藤瑠華の森の女王、小柄で品も感じさせる藤本直子のキューピット、そしてドルシネアの林田まりやは、軽さを持ったバロネなど余裕を感じさせ、キトリと雰囲気を踊り分けて。
居酒屋から結婚式は、もちろん、踊りの見せ場たっぷりに楽しませてもらった。グラン・パ・ドゥでの林田の踊りは、自然な表情で踊り心たっぷり。メリハリの効いた、とても小気味よいものだった。
（2024年6月29日　ソフィア・堺）