貞松正一郎による優しい演出が心地よい貞松・浜田バレエ団ファミリーバレエ『コッペリア~お人形の恋の物語~』

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

貞松・浜田バレエ団

ファミリーバレエ『コッペリア』貞松正一郎:振付

3年前に尼崎アルカイックホール・オクトで初演された貞松・浜田バレエ団のファミリーバレエ『コッペリア』。その後、兵庫県加古郡稲美町で上演し、今回が3回目の上演となった。『コッペリア』全幕もレパートリーに持つが、ファミリーバレエ・ヴァージョンは休憩を入れても2時間に満たないコンパクトな2幕構成で、0歳児から入場可能。劇団加羅倶梨の徳田尚美が花売りのアンナおばさんに扮し、満面の笑顔の親しみやすいおしゃべりで物語に誘う形。加えて今回は、そのおしゃべりに手話通訳(三田宏美)もつき、年齢も障がいも超えて楽しめる工夫が随所に散りばめられた舞台となった。

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ファミリーバレエ『コッペリア』
アンナおばさん:徳田尚美、手話通訳:三田宏美 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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コッペリア:松原光里、コッペリウス:武藤天華 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

スワニルダを踊ったのは小林奈央、明るく表情豊かな演技、伸びやかな動きがこの役に合う。フランツは幸村恢麟。高いテクニックを持つ彼、比較的小柄なことからか技術を活かす脇役にキャスティングされることが多いが『くるみ割り人形』の王子といった実績も持つ。彼の踊りからは、まっすぐに生きているからこその品のようなものがにじみ出るので主役もできる人だとあらためて感じた。この役では、他の女の子に心が動くところに関してだけは「えー、この人はそんなことしなさそう」には見えたけれど。もちろん、最後のグラン・パ・ド・ドゥでは高いバレエテクニックで楽しませてくれた。スワニルダの友人(井上ひなた、シャンティ紀奈、山本小海、清野早紀、水速飛鳥、小澤日向花)、フランツの友人(弓場亮太、大門智、水城卓哉、小森慶介、後藤俊星、高瀬幸太郎)も、主役を担えるダンサーなど粒ぞろいのメンバー。コンパクトな構成のためディヴェルティスマンは最小限になっていたが、名村空と山野井萌によるあけぼのの美しいスタイルを活かした踊りも目を引いた。

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コッペリウス:武藤天華 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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スワニルダ:小林奈央、フランツ:幸村恢麟 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

そしてバレエの内容もほのぼのと温かかったのが良い。基本的なストーリーは同じだが、最後の場面、スワニルダとフランツの結婚式の場面が独特。変わり果てたコッペリア人形の姿に落ち込んでいるコッペリウス(武藤天華)にスワニルダの友人たちが、花嫁と同じような白いチュチュとベールをプレゼント。コッペリウスは、だんだんと心を開き、友人たちや町の人たちと打ち解けていく。そして、最後の最後、1人になって自分の家のベランダに目をやると、コッペリア(松原光里)がゆっくりと深呼吸、息をーー喜びに目を輝かせるコッペリウスというところで幕。このバレエ団らしい優しさだ。
(2024年5月18日 神戸文化ホール・中ホール)

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スワニルダ:小林奈央 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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フランツ:幸村恢麟 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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あけぼの:名村空、山野井萌 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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スワニルダ:小林奈央 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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