田川陽子のマルグリット、水城卓哉のアルマン──ピアノソロに乗せて踊った『椿姫を奏でる』

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

Sparkle-Music with Dance-「椿姫を奏でる」

『椿姫を奏でる』堀登:振付、『Gift 遠い家族が教えてくれたこと』菰田いづみ:振付

ピアノの生演奏に乗せての公演。公演タイトルになっている『椿姫を奏でる』の前に、菰田いづみ振付の『Gift 遠い家族が教えてくれたこと』が上演された。サン・サーンスの『死の舞踏』を中心に、チャイコフスキーやシューベルトなどの楽曲を組み合わせたものを鬼頭久美子(primo)と霜浦陽子(second)が連弾。

菰田が踊る少女が、"喜び"、"怒り"、"哀しみ"、"楽しみ"の感情を表す死霊たちと接し、Gift=一輪ずつの花を受けとりながら変化(成長とも言えるだろうか)していく。興味深かったのは、"哀しみ"を表した死霊の踊りの曲がバレエファンには馴染み深い『くるみ割り人形』の金平糖の精のヴァリエーションの曲だったこと。『くるみ割り人形』で聴く時も憂いある曲だなと思うことはあるが、良い夢の中のイメージが強い。それがここでは、哀しみ、苦悩を表現する踊りの音楽として使われた。そしてそれが、とてもしっくりと合っていたのだ。また、菰田の踊りから、繊細な感性が感じられ、ラストシーンのナチュラルな笑顔で「あぁ、もう、この少女は大丈夫」と温かい気持ちになった。

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『椿姫を奏でる』
マルグリット:田川陽子、アルマン:水城卓哉 撮影:中野元貴

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『椿姫を奏でる』
マルグリット:田川陽子、アルマンの父:大寺資二 撮影:中野元貴

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『椿姫を奏でる』
アルマン:水城卓哉、マルグリットの亡霊:佐藤静佳、倉田光、森口栞、幸田空 撮影:中野元貴

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『椿姫を奏でる』
マルグリット:田川陽子、アルマン:水城卓哉 撮影:中野元貴

そしてメインの『椿姫を奏でる』。ショパンの曲で『椿姫』を上演すると知った時は、ジョン・ノイマイヤー版のことがふと頭に浮かんだが、もちろん、今回、鬼頭が選曲しての構成は、まったく違う使い方。堀登の振付で、出演ダンサーを10名に絞り、約45分の中作品として仕上げた。ピアノ演奏は霜浦。

マルグリットを踊ったのは田川陽子。一つひとつのシーンを、思慮深さをにじませた表現で踊り、経験を重ねたこその深みを感じさせた。アルマンは水城卓哉。優しげな雰囲気のダンサーだが、怒りの場面では、その激しさ、迫力に圧倒される。場面ごとに表現すべきことを的確に表現できるレベルの高いダンサーだとつくづく。また、アルマンの父役の大寺資二、伯爵の野々山亮と実力派が脇を固めた。

涙を誘うのは、アルマンがマルグリットに娼婦としての報酬とお金を投げつける──その残酷な場面が、生きているマルグリットとアルマンが会う最後だったということ。マルグリットの死後、悔やんでも悔やみきれない後悔に包まれるアルマン。ここまで悔やまれるのがせめてもの救いだろうか──心に沁みた。
(2023年10月31日 名古屋市熱田文化小劇場)

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『椿姫を奏でる』
アルマン:水城卓哉、アルマンの父:大寺資二 撮影:中野元貴

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『椿姫を奏でる』
マルグリット:田川陽子、伯爵:野々山亮 撮影:中野元貴

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『椿姫を奏でる』
マルグリット:田川陽子、プリュータンス:稲垣夏子、メイド:菰田いづみ 撮影:中野元貴

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『椿姫を奏でる』
伯爵:野々山亮、高級娼婦:佐藤静佳、倉田光、森口栞、幸田空 撮影:中野元貴

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