中村恩恵振付『ベートーヴェン・ソナタ』を水城卓哉と貞松正一郎の主演で──貞松・浜田バレエ団

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

貞松・浜田バレエ団

『ベートーヴェン・ソナタ』中村恩恵:振付

ベートーヴェンは日記で、自分に対して2人称を使い、「お前は自分のための人間であってはならない。ただ、他者のために──」などと書いていたという。そこから"語りかけるベートーヴェン"と"語りかけられるベートーヴェン"を軸に、中村恩恵が2017年に新国立劇場バレエ団のために振付けた『ベートーヴェン・ソナタ』。それを今回、貞松・浜田バレエ団が上演した。

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『ベートーヴェン・ソナタ』(16日)
ベートーヴェン:水城卓哉、ルートヴィヒ:貞松正一郎
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

べートーヴェンに関する文献を多数読みながら取り組んだという中村。そんな文献に書かれていたことの数々が彼女の中で、まるで良いお酒が醸成されるようにまろやかな舞踊作品へと醸成され、それが舞台上で繰り広げられている──そんな気がしながら観た。今回、"語りかけるベートーヴェン"と"語りかけられるベートーヴェン"を踊ったのは、水城卓哉(役名:ベートーヴェン)と貞松正一郎(役名:ルートヴィヒ)。どちらが語りかける、語りかけられるということは固定しているわけではなく場面によって変化していく。師弟でもある二人は、トーンが合い、表裏のように自然。また、役のせいだろうか、貞松正一郎が、要所要所でふと観せる表情が、私達が観慣れたあのベートーヴェンの肖像画にそっくりでドキッとした。水城は、ベートーヴェンのイメージからは美しすぎるようにも思えたが、繊細な表現に経験を重ねて増している男性らしさが加わり惹きつけた。

ジュリエッタ(宮本萌、17日は小林奈央)、アントニエ(名村空、17日は上山榛名)ヨハンナ(竹中優花、17日は上村未香)といった彼を取り巻く女性達もそれぞれ好演。特に、ヨハンナの竹中は、カール(ヨハンナの息子、ベートーヴェンの甥、幸村恢麟)をめぐって対立するなどの複雑な役柄を大人の深みを持って観せたのが印象深い。ハイドン(武藤天華)、ゲーテ(後藤俊星)、ガレンベルグ(小森慶介)といった脇も実力を感じるダンサー達で、つくづく良いダンサーが豊富なバレエ団だと感じる。群舞も含め、作品を良いものにしたいという思いで気持ちが一つになっていることがいつも感じられるカンパニーだ。
(2023年7月16日 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール)

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『ベートーヴェン・ソナタ』(17日)
ヨハンナ:上村未香、ルートヴィヒ:貞松正一郎
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『ベートーヴェン・ソナタ』(16日)
アントニエ:名村空、ベートーヴェン:水城卓哉、ルートヴィヒ:貞松正一郎
撮影:文元克香(テス大阪)

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『ベートーヴェン・ソナタ』(16日)
ヨハンナ:竹中優花、ルートヴィヒ:貞松正一郎
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『ベートーヴェン・ソナタ』(17日)
ジュリエッタ:小林奈央、ベートーヴェン:水城卓哉
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『ベートーヴェン・ソナタ』(17日)
ベートーヴェン:水城卓哉
撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

1037 撮影:岡村昌夫(テス大阪).jpg

『ベートーヴェン・ソナタ』(17日)
ジュリエッタ:小林奈央、ベートーヴェン:水城卓哉
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

1510 撮影:大藤飛鳥(テス大阪).jpg

『ベートーヴェン・ソナタ』(17日)
ベートーヴェン:水城卓哉
撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

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