パリ・オペラ座のエトワールとして活躍したアティリオ・ラビス振付『アルカード』が京都バレエ団により上演され、オマージュが捧げられた

ワールドレポート/京都

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

京都バレエ団 Triple Bill

『ロゼット』堀内充:振付・指導、『卒業舞踏会』ダヴィット・リシーン:原振付、エリック・カミーヨ:指導、『アルカード Arcades』アティリオ・ラビス:振付、カール・パケット:指導

京都バレエ団は、パリ・オペラ座バレエ団と長く深い交流を積み重ねて多くの舞台を作ってきた。私が知っているは、ファブリス・ブルジョア版の『ドン・キホーテ』や『ロミオとジュリエット』、エリック・カミーヨ版『眠れる森の美女』などの全幕もの、また、日本を題材として19世紀にパリ・オペラ座で上演された『ル・レーヴ』の復元など一部に過ぎないが、その舞台からはいつも得難いバレエ体験を味あわせていただいている。京都バレエ × パリ・オペラ座バレエの公演は、東京で観るパリ・オペラ座バレエの舞台とはまた一味異なっていて、京都の文化風土が密かに、そして細やかに映されており、日本のバレエファンとしてはとても興味深い。だから毎年、私は、夏を迎える京都に胸をときめかせるのである。

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「ロゼット」榊原奈美、北野優香、池田梨菜(手前) 撮影/瀬戸秀美

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「ロゼット」北野優香 撮影/瀬戸秀美

京都バレエ団の2023年夏の公演は、堀内充振付『ロゼット』(音楽・ヴィヴァルディ)、ダヴィット・リシーン振付『卒業舞踏会』(音楽・シュトラウス)、アティリオ・ラビス振付『アルカード』(音楽・ベルリオーズ)という組み合わせによるトリプルビルだった。
まずは、堀内充が振付けた『ロゼット』で開幕した。この作品は2010年の京都バレエ専門学校創立40周年のために振付けられている。
ロゼットとはリボンなどで作る、薔薇の花の美しさをモチーフとして形象化された紋様の胸飾りのこと。記念の式典などで、胸飾りを着けた若い女性の誇らしい気持ちと未来への希望をヴィヴァルディのヴァイオリン・コンチェルトにのせて闊達に踊る作品である。明るいステップが輝く1章、内面の不安と活力を映す2章、身体のいくつかのポーズが形象されて、ラインを描き舞台上で交錯する3章。そして全員で希望を胸に華やかに踊る4章という4つのムーヴメントにより構成されている。
真紅の衣裳を着けた女性ダンサーたちが舞台に弾け、ストップモーションも組み入れ変化に富んだフォーメーションが舞台を彩った。北野優香が明るく活発に踊っていたのが印象に残った。

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「卒業舞踏会」妹尾充人 撮影/瀬戸秀美

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「卒業舞踏会」立津鈴夢、吉岡遊歩 撮影/瀬戸秀美

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「卒業舞踏会」平古場菜穂(中央) 撮影/瀬戸秀美

続いて上演されたのは『卒業舞踏会』。ダヴィット・リシーンが1940年にバレエ・リュス・ド・モンテカルロに振付けて上演した(台本もリシーンによる)。音楽はヨハン・シュトラウスの曲から選曲してアンタル・ドラティが編曲している。美術はアレクサンドル・ブノワ。
19世紀のウィーンの女子寄宿学校の卒業舞踏会を舞台に、招かれた陸軍士官学校の学生たちと卒業する少女たちの青春のひとときの交流が描かれる。次々とシュトラウスのワルツが流れる中、少女の可愛らしい妄想が膨らんで夢中になったり、ダンスの相手にドキドキしたりしているうちに、ディヴェルティスマンが次々と踊られる。軽快なステップと鮮やかなステックさばきの鼓手(妹尾充人)、ラ・シルフィード(立津鈴夢)とジェームス(吉岡遊歩)のロマンティックな踊り、一生懸命のフェッテ競争(神田里穂奈、塩澤友那)など楽しい時は足速に過ぎていく。一方、女子寄宿学校の女性教官(土手沙良良)と士官学校の生徒を率いる老将軍(伊藤大地)もパ・ド・ドゥを踊る。そして、全員で活気溢れるフレンチカンカンが踊られて、楽しかった舞踏会もついに幕を下ろすのだが、意外なロマンスも生まれていた・・・。
リシーンの台本もよくできているのだが、舞踏会の進行とディヴェルティスマンの挿入がワルツのリズムと良く溶け合って、実に絶妙だった。エリック・カミーヨの指導により、フランス風のエスプリの味が添えられ、いっそう楽しい舞台が仕上がった。明るくて何事にも興味津々の女生徒たち、みんなとても可愛かったです。

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「卒業舞踏会」神田里穂奈、塩澤友那 撮影/瀬戸秀美

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「卒業舞踏会」河野真里杏、上森千紗、小出遥翔、梅本ゆら、佐々木嶺 撮影/瀬戸秀美

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「アルカード」北野優香、吉岡遊歩 撮影/瀬戸秀美

トリプルビル最後は、アティリオ・ラビス振付『アルカード』を京都バレエ団のダンサーたちが再演した。(京都初演は2013年)ラビスは1960年から72年までパリ・オペラ座のエトワールとして踊った。私事にわたって恐縮だが、私が「ダンスマガジン」を創刊したのが1984年末。ラビスは既にエトワールを卒業していたが、当時のパリではヌレエフやベジャールの信頼が篤いエトワールとしてその盛名をしばしば耳にし、想像を逞しくしていた。しかしラビスの振付作品に出会うことは叶わなかった。それから40年後、2023年夏、京都バレエ団は私のささやかなバレエ体験の空白を満たしてくれたのである。
『アルカード』は、エクトル・ベルリオーズの三つの楽曲『ベアトリスとベネディクト』『ローマの謝肉祭』『海賊』のそれぞれの序曲にアティリオ・ラビスが振付けた三部構成のシンフォニック・バレエ、と公演パンフレットに解説されている。ラビスがエトワールとして活躍していた1964年にパリ・オペラ座で初演され、その後、パリ・オペラ座バレエ学校でも踊られるようになった。
男女二人のエトワールと男性一人と女性二人のソリスト、そして男女それぞれ10名ずつのコール・ド・バレエが踊った。エトワールは高いリフトも含む大きな動きの明快な踊りで、ロマン派の巨匠ベルリオーズの曲調と共振する堂々とした振付だ。クラシック・バレエの描くフォルムを誇り高く振付け、悠揚迫らざる姿勢で創作にあたっていると感じられた。3曲目では、アールデコ風のウェーブの幕を天から設えて、格調のある舞台空間を現していた。
男性ダンサー10人踊るコール・ド・バレエが力強く、舞台全体に力感を与え、典雅なエネルギーを放出していた。1964年初演だそうだが、当時のクラシック・バレエという芸術に具わっていた気品と毅然とした揺るぎない自信が感じられる舞台だった。パリ・オペラ座バレエでラビスと多くの仕事をしたカール・パケットの指導により、京都バレエ団がこの作品の香気を今日に伝えている。
『アルカード』の開幕前には、今年1月25日に逝去したアティリオ・ラビスの生前の貴重映像が舞台上のスクリーンに上映された。リファールの継承者であり、ヌレエフの亡命にも尽力し、フォンテーンともベジャールとも交流のあったアティリオ・ラビスの業績が、この日、京都で偲ばれ、オマージュが捧げられたのである。
(2023年7月23日 ロームシアター京都 メインホール)

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「アルカード」藤川雅子、鷲尾花凛 撮影/瀬戸秀美

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「アルカード」藤川雅子、鷲尾花凛 撮影/瀬戸秀美

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「アルカード」 撮影/瀬戸秀美

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「アルカード」 撮影/瀬戸秀美

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