上杉真由主宰niconomiel(ニコノミエル)の公演「地に還り 血は廻り」は、A、B、2つのプログラムで

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

『folia』村林楽穂:振付、『on』村林楽穂、高橋佑紀:振付、『Orb─ウチ⇄ソト─』宮原由紀夫:振付、幻想バレエ『組曲クロード・モネと私』上杉真由:振付、『脈々と〜音降る夜と遠い記憶〜』上杉真由:構成演出・一部振付

"人"そのものだったり、"人と人との関係性"だったり、"社会と人"だったり──いつもそういったテーマを、創り手の心の奥深くで料理して眼の前に出してくれるような、、、個人的にそんな風に感じられるダンスカンパニーniconomiel(ニコノミエル)の4回目の公演。今回、プログラムに、「社会の移ろいに追われ、何を大切にして生きているのかを見失いそうなとき、人類の原点に還り、自然の一部として循環していることを思い出す 地に還るその日まで、私たちは何をしよう...て」命には限りがあることを自覚しながら、大切に命を使う。
──そんな言葉が書かれており、そこから今回の公演タイトル「地に還(かえ)り 血は廻(めぐ)り」が付けられているようだ。AB2つのプログラムで、Aプロ「根源」、Bプロ「葛藤」、筆者は両方を鑑賞した。

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『folia』上杉真由、村林楽穂、高橋佑紀、太田千鶴 撮影:樋口尚徳

まず、Aプロ。村林楽穂振付の初演『foria』で幕開け。人と人の関係性を見つめての思いの表現と見えた。次がゲストコレオグラファーの宮原由紀夫振付、初演の『Orb─ウチ⇄ソト─』。内側から光を発する鳥の巣のような大きなランタンのオブジェが重要な役割を担うが、これも宮原の製作だという。回りながら、舞台じゅうに光の模様を描き出す姿は壮観。そのオブジェとともに、宮原、上杉真由、村林、高橋佑紀、太田千鶴、5人のダンサーが踊る。ウチとソト、その境界線って何だろうと考えさせたり......舞踏の大野の『睡蓮』と通じるものが感じられるような気もふとした。とても良いと思ったのは、特に後半にフワーッとした"幸せ感"が広がること。人類全てに対してのおだやかな優しさ、前向きな祈りの気持が溢れる気がして心地よかった。

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『Orb─ウチ⇄ソト─』
上杉真由、宮原由紀夫、村林楽穂、高橋佑紀
ランタン製作:宮原由紀夫 撮影:樋口尚徳

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『on』村林楽穂、高橋佑紀 撮影:樋口尚徳

Bプロの幕開けは村林の『on』。村林振付で、村林と高橋が踊った。舞踊家として成長途上の瑞々しさ感じさせる作品。続いてはガラッと変わって、上杉真由振付で、2019年に中村天平の作曲生演奏で初演された幻想バレエ『組曲クロード・モネと私』。画家クロード・モネとその妻カミーユの物語を幻想的に描いた。今回新たに製作されたというモネの絵画を思い起こさせるような色調のENDOの美術、下田絢子の衣装も良かった。モネを宮原、カミーユを上杉がトゥ・シューズで踊り、抽象的な役柄・ガーデンを村林、高橋、太田が担った。耽美的、バレエの下地があるダンサーたちだからこその魅力も味合わせれくれた。

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『Orb─ウチ⇄ソト─』
ランタン製作:宮原由紀夫 撮影:樋口尚徳

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幻想バレエ『組曲クロード・モネと私』
モネ:宮原由紀夫、カミーユ:上杉真由
舞台美術:ENDO 撮影:樋口尚徳

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幻想バレエ『組曲クロード・モネと私』カミーユ:上杉真由
舞台美術:ENDO 撮影:樋口尚徳

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『脈々と〜音降る夜と遠い記憶〜』
太田千鶴 撮影:樋口尚徳

そして、AプロもBプロもラストは『脈々と〜音降る夜と遠い記憶〜』。オリジナル楽器でのヤマダベンと大久保貴寛のヴァイオリン演奏とともに即興。構成演出と一部分の振付は上杉が担い、大まかな流れはあるようだったが、Aプロ、Bプロで2度観ての変化も楽しんだ。太田の長身を活かしたスケール感のある表現に引き込まれるとともに、宮原の仙人のようでありながらの激しさ、村林のキレのある動き、高橋の中性的で透明感のある魅力、上杉のしっかりした芯の強さがにじむ存在感など、それぞれ個性をよく発揮し、その個性の"違い"があるからこその仕上がりと実感した。
(2023年6月30日 東大阪文化創造館ジャトーハーモニーホール)

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『脈々と〜音降る夜と遠い記憶〜』上杉真由、宮原由紀夫、村林楽穂、高橋佑紀、太田千鶴
音:ヤマダベン、大久保貴寛 撮影:樋口尚徳

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