第36回こうべ全国洋舞コンクール速報
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ワールドレポート/大阪・名古屋
すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna
GW恒例の「こうべ全国洋舞コンクール」。コロナ禍で2年開催出来なかったが、昨年、3年ぶりに再開、続いての今回となった。関西でもっとも歴史があるとともに、このコンクールを経て世界的なバレエ団のプリンシパルになるなど目覚ましい活躍をしているダンサーも数多いレベルの高いコンクール。
ちなみに、このコンクールには「特に優秀と認められた人」に贈られるという"グランプリ"があるのだが、滅多に出ない。今回が第36回の大会なのだが、ちょうど20回前の第16回に、現在、新国立劇場バレエ団プリンシパルである福岡雄大が受賞して以降、誰も受賞していない。そして残念ながら今年も出なかった。
表彰式後にインタビュールームに来てくれた各部門1位受賞者をスナップ写真とともに紹介したい。(表彰式後、交通機関の都合などですぐに帰らなければならなかった受賞者もいる)。
結果詳細は下記、神戸新聞NEXTに。
https://www.kobe-np.co.jp/info/youbu/2023/
女性シニアの部第1位 徳彩也子
「<海賊>よりVa.」
撮影:古都栄二(テス大阪)
女性ジュニア1部第1位 古林華
「<パキータ>よりVa.」
撮影:古都栄二(テス大阪)
女性ジュニア2部第1位 中谷心陽菜
「<ワルプルギスの夜>よりVa.」
撮影:古都栄二(テス大阪)
女性ジュニア3部第1位 多田侑加
「<ドン・キホーテ>よりキューピッドのVa.」
撮影:古都栄二(テス大阪)
男性シニアの部第1位 妹尾充人
「<ドン・キホーテ>よりバジルのVa.」
撮影:古都栄二(テス大阪)
男性ジュニア1部第1位 島長賢汰
「<グラン・パ・クラシック>よりVa.」
撮影:岡村昌夫(テス大阪)
男性ジュニア2部第1位 泉磨秀
「<白鳥の湖>より王子のVa.」
撮影:岡村昌夫(テス大阪)
グループ優秀賞 阪本佳奈 ほか
「失くしてしまった いくつものこと」
撮影:岡村昌夫(テス大阪)
シニアの部第1位 藤本舞
「時のせせらぎ」
撮影:田中聡(テス大阪)
ジュニア1部第1位 不破有彩
「赤い月はその儘に、」
撮影:岡村昌夫(テス大阪)
ジュニア2部第1位 平野稟佳
「悲しい夜、星に祈れば」
撮影:岡村昌夫(テス大阪)
ジュニア3部第1位 伊藤宛南
「神様、あなたを信じていいですか?」
撮影:田中聡(テス大阪)
まず、モダンダンス部門で、お話を聞けたのは、シニア1位の藤本舞さん(神奈川県、井上恵美子モダンバレエスタジオ)。自作の『時のせせらぎ』を踊った。日本女子大学、大学院を経て、舞踊に取り組み続けている25歳。岐阜県を訪れた際に美しい川を眺めながら、水の流れと時の流れに思いを馳せたのだという。「美しい水の流れの中にも、美しくない部分もある。それを自分の経験してきたことと重ねながら」創った。次に創る作品も自然をテーマにと考えているそうで、ぜひ。観てみたい。
クラシック女性ジュニア3部1位は多田侑加さん(愛媛県、舞花バレエスタジオ、10歳)。元気でメリハリの効いた愛らしい『ドン・キホーテ』よりキューピットを踊った。幼い頃、新体操を始めたが、踊るのが好きでバレエに。「大人になったら、海外のバレエ団でプリンシパルになりたい」と話してくれた。特に英国ロイヤル・バレエに憧れているという。
クラシック女性ジュニア2部1位は中谷心陽菜さん(大阪府、スワンバレエカンパニー、14歳)。小さな顔に長い手脚、それに何より楽しそうで、観ているこちらも幸せになってくる『ワルプルギスの夜』よりヴァリエーション。「最初のところが気持ち良く飛べて」その楽しい気持ちのまま踊れたという。「新国立劇場バレエ団の踊りが好き」と、入団を目標にしている。
モダンシニア 藤本舞
クラシック女性ジュニア3部 多田侑加
クラシック女性ジュニア2部 中谷心陽菜
クラシック男性ジュニア2部1位は泉磨秀さん(兵庫県、iSバレエ・アカデミア、13歳)。丁寧にパを繋いでの『白鳥の湖』より王子のヴァリエーション。どこか淋しげな雰囲気も印象に残った。泉ポール、下森瑞の長男、両親ともにバレエ教師というなかで、「何故だったのかは分からないけれど、自分で、5歳になったらバレエをやる」と決めていたという。「将来のことはまだ分からないけど、バレエに関わりたい」と話す。
クラシック女性ジュニア1部1位は古林華さん(兵庫県、蔵本誠子バレエスクール、16歳)。踊られる機会の少ない『パキータ』よりヴァリエーションを踊ったのだが、おだやかで優しげな雰囲気がとても彼女に良く合っていたのが印象的。ジュニア1部1位には「ローズ賞」が贈られるが、これは病で他界してしまった蔵本誠子からの賞だ。蔵本のバレエスクールで、幼い頃には蔵本本人からも教えを請うたという彼女の受賞。彼女自身、とても感慨深い様子だった。
クラシック男性ジュニア1部1位は島長賢汰さん(大阪府、ルシアバレエスクール、15歳)。顔が小さく手脚の長い恵まれた体型に加え、軸のしっかりしたトゥールや甲を意識したアレグロのパ、チャーミングな表情での『グラン・パ・クラシック』よりヴァリエーション。コロナ禍前のこのコンクールでは予選落ちだったというが「先生に注意していただいたことを一つ一つ直して」来たという。今春のYAGP、アメリカ、フロリダ州のタンパで行われたファイナルで4校ほどからスカラシップの申し出を得たそうで、そのなかでベルリン国立バレエ学校に留学する予定だ。
クラシック男性ジュニア2部 泉磨秀
クラシック女性ジュニア1部 古林華
クラシック男性ジュニア1部 島長賢汰
クラシック女性シニア1位は徳彩也子さん(兵庫県、地主薫バレエ団、21歳)。気持ちの良いジャンプ、速度のある回転、喜びが会場中に広がるような『海賊』よりヴァリエーションだった。『ラ・バヤデール』のガムザッティでも踊られる踊り。31回大会でジュニア1部1位を獲得したのに続いての1位。その時は高校生だったが、卒業後、地主薫バレエ団に入団し、既に約2年前の公演で主役も踊っている。この6月には世界三大バレエコンクールの一つ、4年に1度のアメリカ、ジャクソン国際コンクールに出場する予定。さらに羽ばたくきっかけとなるかも知れない。
クラシック男性シニア1位は妹尾充人さん(兵庫県、バレエスタジオ レヴェランス、19歳)。確かなテクニックで美しい形を繋いでの『ドン・キホーテ』よりバジルのヴァリエーション。31歳まで出場できるシニア部門、特に男性はプロとして活動する出場者も多い中、19歳での受賞は注目に値する。姉がやっていたことから始めたバレエ、夢中になる中、同じスタジオの先輩にバレエの道に進むならと勧められた京都バレエ専門学校に在学中。専門課程の3年生で卒業後を考える時期だ。「日本のバレエ団に入りたいと思ったのですが、身長が伸びなくて基準に合わず......」。161cmだという。今後、海外のバレエ団なども調べて行きたいと話してくれた。
クラシック女性シニア 徳 彩也子
クラシック男性シニア 妹尾充人
今回の受賞者たちも数年後に世界的な活躍を見せてくれそう!と思うと同時に、海外ばかりじゃなく、日本のバレエ団も、もっともっと充実して欲しい──こんなにも素晴らしい若手が次々と育っているのだから、と心から思う。
(2023年5月3日、4日、5日、6日 神戸文化ホール 大ホール・中ホール)
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