京都の豊かな季節感と恐ろしい祭りの夜を堪能した、京都バレエ団「La Fusion」公演

ワールドレポート/京都

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

京都バレエ団「La Fusion」

『京の四季』有馬えり子:振付・指導、『屏風』有馬龍子、安達哲治:原構成・演出・振付、有馬えり子:再振付・指導

京都には高層ビルがない。京都五山の送り火は市内から見ることができるし、仁和寺の五重塔が見えたら、京都のどこにいるのかおおよその見当がつく。北野天満宮の梅、平安神宮の桜、貴船の森や賀茂川を渡る風の涼、東福寺や渡月橋の紅葉、雪の金閣寺・・・・京都の人々は、実に豊かに四季を日々の生活の中で自然に感じながら生きている。ビルにトリミングされた狭い空間から、身を乗り出して両国の花火を見る、という街では日々、季節感を感じつつ生きる生活は無い。
2023年新春、京都バレエ団は『京の四季』と『屏風』を上演した。

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「京の四季」春 撮影:田中 聡(テス大阪)

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「京の四季」春 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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「京の四季」春 撮影:田中聡(テス大阪)

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「京の四季」夏 撮影:田中聡(テス大阪)

『京の四季』は、春は宮城道雄作曲「春の海」、夏は大谷祥子作曲「(源氏物語より)蛍」、秋は大谷祥子作曲「祇王の涙」、冬は沢井忠夫作曲「百花譜より冬」を、箏の三面(大谷祥子、菊武粧子、山内彩)と小鼓(藤舎呂悦)、ヴァイオリン(平山美萌)が演奏し、京都バレエ団のダンサーたちが踊った。春と秋には華道家元池坊の小池美由希と青木優里が、ダンサーたちが届ける花をライヴで活ける。この舞台を見ていたら、振付家がダンサーという花を活けてどんな美しさを創ろうか、と思案している様子が垣間見られたような気がした。ダンサーの衣裳はバレエのものと、古式風の衣裳を踊りやすくアレンジしたもの。いつも感じることだが、京都バレエの舞台では、和の意匠を巧みに取り込んで、踊りが映える衣裳が素敵だ。雰囲気があって「粋」が感じられる。春の衣裳は有馬龍子作品でも使われた京友禅だそうだが、クラシック・バレエと日本の着物文化が融合して、新しい伝統が作られつつあるのかもしれない、と思った。
夏は、劇場全体があたかも雲の中に浮かんだかのような感じで現れて始まった。淡いスカイブルーと臙脂色の衣裳を着けた群舞が、躍動感を秘めて踊った。「源氏物語」の玉鬘を蚊帳の中に放った蛍の光で見る、音のない光の情景を筝曲が格調高く唄った。もっと筝曲で踊るバレエがあってもいい、と思わせるほど、バレエのステップと良く馴染んでいる。秋は「平家物語」の祇王を捨てて仏御前を寵愛した清盛の話から、成仏した3人のがあの世で語り合う様子を踊った。生花のライヴを背景に<諸行無常>の観念が垣間見えた。冬は白い雪の精たちの群舞と雪の王(佐々木嶺)の力強い踊りが際立った。そして劇空間を渡る鼓のリズムも素晴らしかった。再演によってさらに和楽器とバレエのステツプがいっそう渾然一体となった。

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「京の四季」秋 撮影:田中聡(テス大阪)

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「京の四季」秋 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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「京の四季」冬 撮影:田中聡(テス大阪)

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「京の四季」秋 撮影:田中聡(テス大阪)

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「京の四季」冬 撮影:田中聡(テス大阪)

『屏風』は、1974年に有馬龍子、安達哲治の演出・振付により初演され、フランス、イギリスなどでも好評を博した。その後もたびたび再演されてきた。2018年の再演の際にも再構成したが、今回、改めて有馬えり子が再振付を行っている。
新たにプロローグを設けに、主人公の太一(鷲尾佳凛)が同棲していた女性を捨てるシーンを置いた。強い無念の思いを抱いたまま女性が消えると、一転して賑やかな花祭りのシーンとなる。白川女も姿を見せ、祭りを楽しむ人々の活気のある踊り。衣裳は、和風の衣裳をデザインしていて、一眼で着ている人の職業がわかる。いつの間にか男女の屏風売り(北野優香、佐々木嶺)が登場して、様式がかった踊りで、祭りで賑わう人々の中を白地の屏風を売り歩く。
京子(藤川雅子)と祭りにあそびに来ていた太一は、一目でこの謎の屏風に魅せられてしまう。京子よりも屏風に取り憑かれたように惹きつけられて離れられない。そしてついになけなしの結婚資金で、その屏風を買ってしまう。
祭りの夜、太一は目の前に謎の屏風を置き、一人寝転んで屏風の白い面をじっと見つめていた。すると屏風の中から妖しく美しい美女(伝田陽美)が姿を現す。ここはなかなか見事。どのような仕掛けかはわからなかったが、本当に冥界からわきいでたかのようだった。
妖しい美女は優しく太一を誘う。太一は一瞬、誰かの面影を感じたような気もしたが、たちまち魅了されて深く睦み合い、甘美な夜を過ごす・・・・。ここから伝田が長いソロヴァリエーションを踊る。あの世から持ちきたった深い怨念を明解な大きな表現で舞台に描く。さすがに見事な表現力だった。

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「屏風」伝田陽美、鷲尾佳凛 撮影:田中 聡(テス大阪)

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「屏風」撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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「屏風」藤川雅子、鷲尾佳凛 撮影:田中 聡(テス大阪)

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「屏風」撮影:田中 聡(テス大阪)

翌日、何も知らない京子は太一を訪ねると、なんと、太一は息絶えていた・・・・ただただ驚くばかり。
音楽は、エリック・サティのピアノ曲。小鼓(藤舎呂悦)と横笛(藤舎貴生)がたいへん効果的で深い印象を残した。朗々たる謡は金剛永謹、そして詞章は冷泉貴美子でシナリオも創っている。祭りの情景など素敵な雰囲気を醸した美術は皆川千恵子だった。
太一を踊った鷲尾の存在感がとても良かった。屏風に取り憑かれた表現がリアルで説得力があったし、落ち着いてやや控え目な演技に徹して、作品全体を支えることに成功している。藤川雅子もこの世を信じ肯定して明るく生きている姿を素直に踊っていた。
全体としてはプロローグを置いたことで分かりやすくなり、ミステリアスな魅力も失われなかった。そこがこの作品の優れているところなのだろう。
(2023年1月8日 ロームシアター京都メインホール)

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「屏風」鷲尾佳凛 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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「屏風」伝田陽美 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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「屏風」伝田陽美、鷲尾佳凛 撮影:田中 聡(テス大阪)

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「屏風」伝田陽美、鷲尾佳凛 撮影:田中 聡(テス大阪)

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「屏風」撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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「屏風」伝田陽美 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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