河森睦生のゾベイダ、佐々木大の金の奴隷、山口章のシャリアール王での『シェヘラザード』ほか、先人達への「HOMAGE」

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

X-LAB PRESENTS VOL.1「HOMAGE」

『ソワレ・ド・バレエ』深川秀夫:振付、『シェヘラザード』法村牧緒:監修ほか

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『マーラーよりアダージェット』
山本悦子、山本隆之 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

長年、法村友井バレエ団で活躍して来た河森睦生(旧姓:西尾睦生)が企画した公演。彼女は、今、50歳。かつての若き日に尊敬していた先生から「今は精一杯努力する時。もし50歳まで続けられたら、チャンスは一度、一番好きな役を全力でやってみて! それまではいただいた踊りを納得いくまで掘り下げて、毎日がんばればいいのよ」と言われたのだという。そして、今、彼女が選んだのが『シェヘラザード』のゾベイダ役。幼い頃から、この役に強く惹かれていたそう。子どもが惹かれるのは不思議な気もする複雑な役だが、法村友井バレエ団では友井唯起子をはじめとした素晴らしいダンサーが踊ってきたことを思えば、多感な子どもの心を捉えたことに納得できる気がする。
公演では、そんな先人たちへの敬意を込めた『シェヘラザード』をラストの演目として、彼女が踊り続けてきた中で、仲間となった多彩なダンサーたちが出演して多くの演目が上演された。

第1部、"DRAMATIC select"と名付けられた幕開けは、深川秀夫振付の『ソワレ・ド・バレエ』。関西で活躍する実力派10人、5組の男女のカップルを中心に、コール・ド・バレエも入っての充実したダンサー陣だった。深川秀夫が亡くなってから、これだけ多くの良いダンサーが集う形での上演は珍しいのではないかと思う。
第2部は、縁あるダンサーたちが多数出演した "ONLY ONE NIGHT SHOW"と名付けられたコンサート。順不同で印象に残ったものを挙げると、まず、山本悦子振付で、彼女と山本隆之が踊った『マーラーよりアダージェット』。山本隆之の妻・規子のピアノ演奏に乗せて踊られた。しみじみとした余韻が残る良いパ・ド・ドゥだった。森美香代振付で、河森睦生と山口章が踊った『Rose』は、福原寿美枝の歌、山田利恵のピアノとともに、男女の一筋縄ではいかない関係を描いているように見えた。また、一柳麗振付の『Adore』は、コケティッシュで小気味よく、中心の片岡典子の視線アピールも印象的で、片岡の、今まで私が観てきたものとはまた違った魅力が見えた気がする。

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『Rose』
河森睦生、山口章 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『Adore』
中央:片岡典子 撮影:古都栄二(テス大阪)

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『ソワレ・ド・バレエ』 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

そしていよいよラストの第3部、"HOMAGE"と第され、「永遠のリスペクトを込めて」と副題がつけられた『シェヘラザード』。法村牧緒監修で法村友井バレエ団復刻版。
シャリアール王(山口章)が戦地に赴いている間に、奴隷の檻の鍵を開けさせて享楽に耽る女たち、河森が踊るゾベイダは、はじめそれを静かに冷ややかに遠くから観ているが、やがて金の奴隷(佐々木大)の圧倒的な魅力に溺れていく......。物語をそのまま語れば"道ならぬ恋"なわけだが、河森のゾベイダを観ていると、心の底からの愛──純愛が感じられる気がした。"愛"ってなんだろう? 何も計算や計画なく、人にどうしようもなく惹かれることではないか? はじめ、ゾベイダはそんな"愛"をシャリアール王に注いでいる。だが、中盤、金の奴隷と向き合った時、どうしようもなく"愛"が溢れる。それは、何の裏表もない純愛。そして、シャリアール王が戻り、それが明るみに出た時、迷わずにその償いに自らの命を差し出す──。
河森は、法村友井バレエ団でも脇の難しい役どころで味のある良い表現を重ねて来たダンサー。それが今回、良い形で結実した。どこまでもピュアなゾベイダからは、けなげな可愛らしさも感じられて私の心に刻まれた。加えて、複雑な心情を静かに好演した山口章、堂々たる存在感と衰えない動きでダイナミックかつ深みある金の奴隷を踊った佐々木大。同時代のダンサーとして、長い年月ともに踊って来た信頼感も下地となっているように思えた。
これからも経験を活かした表現を観せて欲しいと思う。
(2022年12月25日 フェニーチェ堺大ホール)

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『シェヘラザード』
ゾベイダ:河森睦生、金の奴隷:佐々木大
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『シェヘラザード』
ゾベイダ:河森睦生、金の奴隷:佐々木大
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『シェヘラザード』
ゾベイダ:河森睦生、シャリアール王:山口章
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『シェヘラザード』
シャリアール王:山口章、金の奴隷:佐々木大、ゼマン(王の弟):今井大輔
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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