堀川美和振付のコロナ禍をテーマにした『パンデミック』他に加え、田中月乃、樋上諒、成田紗弥、大巻雄矢の注目ダンサーたちも踊った

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

Sensational Ballet Company「堀川美和Choreographic performance2022」

『パンデミック』堀川美和:振付、他

DSC_5265.jpg

『運命の女神』撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

堀川美和率いるSBC(Sensational Ballet Company)の公演。歌も入る『命』で幕を開けた。コロナ禍の中で、さまざまな角度からの想いが表現されていると感じられる作品の多かった。

特に印象に残ったものを挙げたい。まず、以前にも観た記憶がある堀川美和の代表作の一つ『運命の女神』。「カルミナ・ブラーナ」の音楽で、山本寛人デザインの衣装に身を包んだ群舞の中心、"女神"として一気に惹きつけたのは松井英理。この演目からずっと彼女に惹きつけれっぱなしだったように思う。ダイナミックなジャンプ、ゾクゾクさせる迫力、本当に良いダンサーだ。
2部では彼女が振付け、群舞とともに踊った『Selah』も。宗教的な意味合いを感じさせるようなフード付きの黒衣のダンサーたち、英語のアナウンス「ハレルヤ!」とともに、大きな力が爆発するような不思議な迫力に目が離せなかった。
その後にはクラシックのグラン・パ・ド・ドゥが2つ。『コッペリア』を踊ったのは、昨年のローザンヌ国際バレエコンクールで2位に入賞してノルウェー国立バレエに入団した田中月乃と樋上諒。田中月乃は明るい魅力で幸せが大きく広がるよう。樋上はまっすぐな軸での多回転が美しく、2人ともフレッシュな魅力が眩しい。『白鳥の湖』から黒鳥のパ・ド・ドゥは成田紗弥と大巻雄矢。プロとしての経験を重ねる2人は、堂々としてメリハリの効いた踊り。2人ともテクニックが強く、成田の妖婉な魅力、大巻のベテランの年齢になっても無邪気さがチャーミングに見えることもとても良かった。

DSC_5360.jpg

『運命の女神』
松井英理 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

DSC_6477.jpg

『Coppelia』グラン・パ・ド・ドゥ
田中月乃、樋上諒 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

DSC_6687.jpg

『Black Swan』グラン・パ・ド・ドゥ
成田紗弥、大巻雄矢 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

DSC_8495.jpg

『パンデミック』
リモート愛:斉藤綾子、佐藤惟 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

DSC_8736.jpg

『パンデミック』
コロナウイルス:松井英理 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

そしてラストは、コロナ禍を描いた堀川美和振付『パンデミック』。2年前に初演された作品で、手を入れての再演だ。ままならない暮らしから子供(星野朱璃)に手を上げてしまう母親(貝阿彌みこ)、会えない切なさを透明なパーテーション使って描いたリモート愛(斉藤綾子、佐藤惟)など、コロナ禍で、病そのものに限らず社会状況の中で苦しむ人々の姿が描かれる。コロナウイルスを踊ったのは松井英理。初演では大前光市が踊った。同じ役だが、やはりかなり印象が変わる。どちらもレベルの高いダンサーなので、強調される面が変わると言えば良いだろうか。大前のコロナウイルスは"得体の知れない"存在という面が大きい、松井のコロナウイルスは、社会を動かしていく存在のような......。これは、2人の個性の違いだけでなく、この2年という時を経ての違いもあるかも知れない。良い作品は、こうして踊る人、時、によって変化していく──それも醍醐味だ。
(2022年12月30日 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール)

DSC_8712.jpg

『パンデミック』
柳本雅寛、松井英理 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

DSC_8956.jpg

『パンデミック』 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る