動きに気持ちを乗せてうたう喜び、テアトル・ド・バレエカンパニー40周年記念公演、オータム バレエガラコンサート2022

ワールドレポート/名古屋

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

テアトル・ド・バレエ・カンパニーメモリアル公演

『Dance Lirique』遠藤康行:振付ほか

テアトル・ド・バレエカンパニー40周年公演 撮影:文元克香(テス大阪)00146.jpg

撮影:文元克香(テス大阪)

11月23日・25日、愛知県芸術劇場でテアトル・ド・バレエカンパニー(以下TBC)が40周年記念公演を行った。主宰の塚本洋子は、K バレエカンパニーでプリンシパルを務めた荒井祐子、新国立劇場プリンシパルの米沢唯をはじめ、数多くの優れたダンサーを世に送り出し、コンテンポラリー作品にも意欲的に取り組んでいる。23日のオータム バレエガラコンサートでは、遠藤康行振付の新作『Dance Lirique(ダンスリリック)』が上演された。

バレエには様々な面があるけれど、やはり「きらきらと光るもの」だと思う。開幕の瞬間から、バレエがもつまばゆさをまざまざと感じさせられた。

テアトル・ド・バレエカンパニー40周年公演 撮影:岡村昌夫(テス大阪)00154.jpg

撮影:岡村昌夫(テス大阪)

テアトル・ド・バレエカンパニー40周年公演 撮影:岡村昌夫(テス大阪)00168.jpg

撮影:岡村昌夫(テス大阪)

オープニングは『海賊』より花園のシーン。音楽とともに、美しいポーズが折り目正しくぴたりぴたりと決まってゆく。約30人の踊りは基礎に厳格でありつつ、ボディから指先、つま先までいきいきと弾み、踊る喜びにあふれていた。
4組のダンサーによるパ・ド・ドゥ集は、いずれも豪華だった。最初は、加藤恵梨(TBC)と梶田眞嗣(Vancouver Goh Ballet Company)による『海賊』1幕の、いわゆる「奴隷のパ・ド・ドゥ」。奴隷商人ランケデムと、捕らわれた娘ギュリナーラの踊りだが、加藤のギュリナーラは、その魅力が自然とこぼれてしまっているような愛らしさ。足運びが軽やかで、バランスが長いためポーズの美しさが目に残る。梶田は端正さを崩さずに、豪快なジャンプや回転を披露した。

テアトル・ド・バレエカンパニー40周年公演 撮影:岡村昌夫(テス大阪)00244.jpg

撮影:岡村昌夫(テス大阪)

テアトル・ド・バレエカンパニー40周年公演 撮影:岡村昌夫(テス大阪)00301.jpg

撮影:岡村昌夫(テス大阪)

2組目は地主薫バレエ団の徳彩也子、林高弘によるダイアナとアクティオンのグラン・パ・ド・ドゥ。徳のダイアナはビュッ! と伸びる脚や背中のライン、勝ち気な表情が強い印象を残す。林は空中にゆったりとした放物線を描く、解放感あふれるジャンプで会場を沸かせた。
3組目は東京バレエ団の中沢映理子と生方隆之介による『海賊』第2幕のグラン・パ・ド・ドゥ。二人ともまったく力みなく超絶技巧を披露。中沢ははなやかでおっとりとした姫君らしさがあり、生方は哀愁すら感じさせる、気品あるアリを踊った。
最後は元バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の佐久間奈緒と厚地康雄による『眠れる森の美女』第3幕。お姫様と王子様の決定版のようなグラン・パ・ド・ドゥである。次々と決まる美しいポーズやリフトからは、はなやかさとともに、二人の信頼関係の温かさも感じられた。

テアトル・ド・バレエカンパニー40周年公演 撮影:岡村昌夫(テス大阪)00358.jpg

撮影:岡村昌夫(テス大阪)

テアトル・ド・バレエカンパニー40周年公演 撮影:岡村昌夫(テス大阪)00346.jpg

撮影:岡村昌夫(テス大阪)

テアトル・ド・バレエカンパニー40周年公演 撮影:岡村昌夫(テス大阪)00563.jpg

撮影:岡村昌夫(テス大阪)

第二部は新作『Dance Lirique』。東京バレエ団の秋山瑛、池本祥真がソリストを務め、オーディションで選ばれた16名のダンサーが踊った。ダンサー1人ひとりがバレエの高い技術をもっており、動きの輪郭が端正でくっきりとしている。音楽はバッハなど、清澄なひびきをもつバロック音楽を中心に構成されており、ダンサーたちのアカデミックな動きとよく合っていた。副題は「ムーブメントに乗せてエモーショナルに綴るダンス叙情詩」。磨かれたことばで心の動きをうたうのが叙情詩だとすれば、この作品は磨かれた動きで心をうたう詩なのだった。
「詩」なので明確なストーリーがあるわけではない。でも、ダンサーたちの動きの表情から、愛する喜びや別離の悲しみ、孤独やユーモアなど様々な感情と、その背景にある普遍的な物語のようなものが感じ取れる。ふと「神話」を連想してしまったのは、短いスカート姿の秋山と、長いスカートのような腰布をまとった池本のデュオが神々しくて、可憐な乙女と神の悲恋のようにも見えたからかもしれない。池本が去った後、一人立ち尽くす秋山の背中の美しさが忘れられない。

テアトル・ド・バレエカンパニー40周年公演 撮影:岡村昌夫(テス大阪)00558.jpg

撮影:岡村昌夫(テス大阪)

テアトル・ド・バレエカンパニー40周年公演 撮影:岡村昌夫(テス大阪)00720.jpg

撮影:岡村昌夫(テス大阪)

遠藤の振付は、バレエのテクニックそのものは崩さずに、自在に組み合わせて駆使することで、きわめて豊かなボキャブラリーを生み出していた。ダンサー同士のコンタクトひとつでも、たとえば手先・足先をつなぎ合うような小さな接触もあれば、相手のボディを横抱きにするようなダイナミックなリフトもある。ダンサーたちはきっと、動きに気持ちを乗せて「うたう」楽しさや手応えを感じていたのではないかと思う。この作品は、観客にとって見応えがあるのはもちろん、今後、バレエを学ぶ人にとって素晴らしい教材にもなるのではないだろうか。バレエ学校の生徒のためにつくられたというバランシンの名作『セレナーデ』のように。

幕切れには、主宰の塚本洋子が白いドレス姿で舞台に現れ、大きな喝采を浴びた。2023年11月の公演では、遠藤振付の新制作『レ・シルフィード』と深川秀夫の代表作『ソワレ・ド・バレエ』の上演が早くも決定し、4月にはオーディションが行われるという。

テアトル・ド・バレエカンパニー40年の歴史とともに、バレエのもつ光の種のような創造性を感じた、とても贅沢なガラ公演だった。
(2022年11月23日 愛知県芸術劇場大ホール)

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る