十川大希が絵画の中の骸骨を踊ったサイトウマコト振付『Totentanz』、池田由希子主演の『ジゼル』など──環バレエ団「初秋のバレエコンサート」

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

環バレエ団「初秋のバレエコンサート」

サイトウマコト:振付(『Totentanz』)他

『仮面舞踏会』で幕を開けた公演。続いて上演されたサイトウマコト振付『Totentanz』が、まず印象に残った。フランツ・リスト作曲の「死の舞踏(Totentanz)」を使い、ペスト(黒死病)の時代を背景に、朽ちた教会に飾られた絵の中の死神が死霊たちとともに、教会へ迷い込んだ病に侵された少女を死へと導くというストーリーが描かれた。死霊たちは、動きはまったく違うが、どこか、この舞台の後半で上演された『ジゼル』のウィリーたちと重なるような気がする。死にゆく少女を踊った宮田愛里は難しい大役によく取り組んでいた。そして、やはり、この作品でもっとも、その世界に入り込んでいたのは絵画の中の骸骨を踊った十川大希だろう。中性的で内面に繊細なものを感じさせるダンサー、まだ少年の雰囲気を残しながら、この世のものとは違う雰囲気をまとって死へと導く。興味深く観た。

環バレエ団・環ジュニアバレエ団「Totentanz」撮影:薮内優美(テス大阪)00004.JPG

『Totentanz』
絵画の中の骸骨:十川大希
撮影:薮内優美(テス大阪)

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『Totentanz』
絵画の中の骸骨:十川大希、死にゆく少女:宮田愛里
撮影:薮内優美(テス大阪)

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『Totentanz』絵画の中の骸骨:十川大希、死にゆく少女:宮田愛里 撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

そして『ジゼル』全幕。原田高博の指導で上演されたこの舞台でジゼルを踊ったのは池田由希子。実は、私は彼女の踊りを、サイトウ振付のコンテンポラリーで観て、強く印象に残っていた。『鞄女』の鞄の中に入る女、『ロミオとジュリエット』のジュリエット、どちらも狂気と紙一重のような、どこか危険な空気を感じた。その彼女のジゼルは想像以上に良かった。1幕の登場での第一印象はクリアな感じ、1つのことを思えば、他のことはまったく目に入らず突っ走るような危うさ。もちろん、ジゼルにはアルブレヒトを愛するあまり狂気に陥ってしまうわけだが。そしてやはり狂乱はゾクッとさせてくれた。"動かなくても表現できるダンサー"、とても難しいことだとは思うけれど、彼女はそれが出来るダンサーだ。

環バレエ団・環ジュニアバレエ団「ジゼル」撮影:薮内優美(テス大阪)00017.JPG

『ジゼル』
ジゼル:池田由希子、アルブレヒト:上村崇人
撮影:薮内優美(テス大阪)

環バレエ団・環ジュニアバレエ団「ジゼル」撮影:大藤飛鳥(テス大阪)00018.JPG

『ジゼル』
ペザント:宮田愛里、栗野竜一
撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

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『ジゼル』ジゼル:池田由希子 撮影:薮内優美(テス大阪)

2幕も彼女がもともと持っているのかも知れない、"この世のものではない雰囲気"が出て良かった。アルブレヒトの上村崇人も高いテクニックに基づいた大きな踊りで、悔やむ気持ちやジゼルへの愛が自然に伝わって来た。
思った以上に良かったジゼルだから、まだ若い彼女に欲を言うとしたら、慈愛、深みといったところはこれからかと思う。少女が少女のまま、思いのままにいるジゼル。それもありかと思いながら、『ジゼル』は素晴らしい演目なので、さらに深みに向かって踊っていっていただけたら、、、と思う。
(2022年9月11日 大阪メルパルクホール)

環バレエ団・環ジュニアバレエ団「ジゼル」撮影:薮内優美(テス大阪)00027.JPG

ジゼル:池田由希子、アルブレヒト:上村崇人
撮影:薮内優美(テス大阪)

環バレエ団・環ジュニアバレエ団「ジゼル」撮影:薮内優美(テス大阪)00029.JPG

ジゼル:池田由希子、アルブレヒト:上村崇人
撮影:薮内優美(テス大阪)

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