"戦争"が現在の身近なことだと痛感させられる今、"風"役に貞松融と中村恩恵を迎えて──アンサンブル・ゾネ『緑のテーブル2017』

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

アンサンブル・ゾネ

『緑のテーブル2017』岡登志子:振付

岡登志子が2017年に振付けた『緑のテーブル2017』。ヒトラーがドイツ首相に任命された1932年にパリで初演されたクルト・ヨース振付の反戦をテーマにした『緑のテーブル』。この作品に感銘を受けた岡が、自身の作品として、まったく違う音楽を使って構成し振付けたオリジナル作品だ。岡は、ヨースがピナ・バウシュなどを育てたドイツのフォルクヴァング芸術大学の卒業生でもある。

2017年に初演された時、その後の再演、そして今回と私がこの作品を観るのは3回目となる。それぞれ記憶に残る舞台だが、今回は、随分、違った意識で観ることになったように思う。私自身もバレエ関係者として何度も訪れた国であるウクライナとロシアの間に戦争が起こっている。そこから日本に避難して来られた方々にも身近に出会うという中で観て、以前2回は、遠い昔、またはどこか遠い国のことのように思いながら観てしまっていたんだと痛感した。

基本的な構成は初演から変わらないが、キャストが違うだけでも随分印象が変わる。幕開け、登場するのは言葉もある"風"役。初演で舞踏家の故・大野慶人が踊ったこの役を今回は貞松融と中村恩恵。少年時代に第二次世界大戦を経験している貞松の言葉には説得力があり「芸術に国境はありません」という言葉は心に強く響いた。

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『緑のテーブル2017』政治家たち 撮影:松村芳治

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死神:垣尾優 撮影:松村芳治

白く大きなテーブル(緑ではなく)の周りで画策する政治家たち、昭和レトロなワンピースの娼婦たちに、中性的な男性ダンサー高橋佑紀が入っていたのは良いアクセント。
絶対にこいいう人はいると思わせるガラの悪そうな利得者の糸瀬公二、日本の企業戦士と重なるメガネにスーツの兵士の堤悠輔、エキセントリックな魅力も感じさせるパルチザンの松村有実、飄々として全てを上から観ている?、けれどもしかしたら悪気なんてなく?──そんな風に思わせる死神の垣尾優、そして、戦争が弱い者に及ぼす影響を、柔らかく哀しげに詩的に体現する難民の岡登志子。それに、全てを包み込むような中村恩恵の母。それぞれ違った個性を持つ良いダンサーが集った。

ラスト、美術の廣中薫が描いた緑の作品の数々を白いテーブルにダンサーたちが置くことでテーブルは緑になっていく。テーブルが緑になって、平和へと進み出せるだろうか?  
今の世界を思うと、なかなか、そんな確信は持てないけれど、、、平和へと進み出せるように、望まずにはいられない。
(2022年7月22日 神戸市中央区文化センター・1階多目的ルーム)

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難民:岡登志子 撮影:松村芳治

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兵士:堤悠輔、娼婦:桑野聖子、舞羽、高橋祐紀、秋田乃梨子 高田麻結 撮影:松村芳治

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風:貞松融、風/母:中村恩恵 撮影:松村芳治

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風:貞松融、風/母:中村恩恵 撮影:松村芳治

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利得者:糸瀬公二 撮影:松村芳治

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パルチザン:松村有実 撮影:松村芳治

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