藤井泉、上杉真由、宮原由紀夫、3名それぞれの感性で表現した力作のトリプルビル

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

niconomielVol.3「Synergy2」

『やまわらう』藤井泉:振付、『Ma déesse』上杉真由:振付、『MEME.』宮原由紀夫:振付

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『やまわらう』(振付:藤井泉)撮影:樋口尚徳

経験を積み重ね、若手から中堅へと着実に進んでいる──そんな時を迎えていることが感じられる実力派振付家3人によるトリプルビルだった。
niconomielは、上杉真由が2018年に立ち上げたカンパニー。今回、3回目の自主公演で、昨年の公演は大阪文化祭賞奨励賞を受賞している。クラシック・バレエの基礎訓練を重ねるダンサーたちが、それに留まらない表現を模索する。踊ったのは少数精鋭5人のダンサー(石井真彩子、村林楽穂、高橋佑紀、太田千鶴、西川葵)と、3人の振付家たちも、自らの作品以外にダンサーとして登場したり、といった形。

まず上演されたのは、藤井泉振付『やまわらう』。俳句の春の季語 "山笑う" に惹かれての作品だという。幕開け、舞台いっぱいの大きな布が波打つ様に惹き込まれる。3ペアでの文楽の人形と人形遣いを思わせるような場面にコミカルなものを感じたりしつつ観ていたら、ラストは "壮大"。広い空に気持ちよく連れていかれるような、カタルシス、善き未来を予感させるような気持ちの良いラスト。

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『やまわらう』(振付:藤井泉)撮影:樋口尚徳

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『Ma déesse』(振付:上杉真由)撮影:樋口尚徳

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『Ma déesse』(振付:上杉真由)撮影:樋口尚徳

2つ目は、上杉真由が「サティとサティの心の女性たち」を題材に振付けたという『Ma déesse』。大きな存在である母または祖母?と思わせる存在を藤井泉、父かと思える存在を宮原由紀夫、そして、その2人の間の少年は高橋佑紀、彼がサティだろうか? メガネを掛けた気の弱そうな少年、そのとまどう繊細な様子に、自分を重ねてしまいたくなった。クラシック・チュチュをシンプルでモダンにしたような衣装の4人での「4羽の白鳥」のパロディのようなところもシュールで、彼の胸の内のパニックが伝わる。

そしてラストは、宮原由紀夫振付『MEME.』。昨年の作品を手直しての再演。良い作品は、こうして手を入れながら再演することが不可欠だと思う。"伝える"ということについての考察。伝えるのは、文字や言葉だけではない、しぐさや視線、空気感、あらゆるもので"伝わる"。そして、それこそ、それは、バレエやダンス、あらゆる舞踊がもっとも大切にすること。コロナ禍の中、そんな空気感等々で伝えることが難しくなっていたが、また、回復するだろうか? 回復して欲しいと心から思う。

3作品を見終わって、振り返ってあらためて思ったのは、どれもが大阪らしいユーモアを感じさせたこと。それは大きな魅力で、それがあるからこそ、伝わるものがあると確かに思う。
(2022年6月12日、一心寺シアター倶楽)

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『Ma déesse』(振付:上杉真由)撮影:樋口尚徳

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『MEME.』(振付:宮原由紀夫)撮影:樋口尚徳

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『MEME.』(振付:宮原由紀夫)撮影:樋口尚徳

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『MEME.』(振付:宮原由紀夫)撮影:樋口尚徳

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