貞松・浜田バレエ団が『レ・シルフィード』『牧神の午後』(ロビンス版)『ポロヴェッツ人の踊り』の3演目を上演

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

貞松・浜田バレエ団「バレエ・リュスの世界」

『レ・シルフィード』ミハイル・フォーキン:振付、『牧神の午後』ジェローム・ロビンス:振付、『ポロヴェッツ人の踊り』貞松正一郎:振付

貞松・浜田バレエ団が、セルゲイ・ディアギレフ生誕150年の節目にあたる今年、初めて、"バレエ・リュス"をテーマに公演を行った。上演されたのは、『レ・シルフィード』、ロビンス版の『牧神の午後』、『ポロヴェッツ人の踊り』の3演目。

まず上演されたのは『レ・シルフィード』。実は企画当初、この作品の指導は、ウクライナのキエフ・バレエ芸術監督 エレーナ・フィリピエワとヴィタリー・ネトルネンコが来日して行う予定だったと聞く。だが、戦禍で叶わず、急遽、ベラルーシで経験を積んだ渡部美季とアレクサンドル・ブーベルの指導で上演された。クラシックの基礎がきっちり入った女性ダンサーが数多く揃うこのバレエ団、群舞の隅々にいたるまでレベルの高い踊りを観せてくれたのは予想通り。そしてソリストたちは、各コンクールで1位などの上位入賞歴のある若手が中心で、それぞれの持ち味を活かしながら見応えのある踊りを観せてくれた。フワッとした空気感のある動きに知性をにじませたワルツの名村空、恵まれた長身に女の子らしい甘い魅力をにじませるプレリュードの井上ひなた、詩人はノーブルな魅力を感じさせて、これからが楽しみな後藤俊星、そしてマズルカは安心感のあるベテラン、上山榛名。全体に夜の森の幸せな雰囲気が満ちていて、観ていてとても心地よかった。

貞松・浜田バレエ団「レ・シルフィード」撮影:岡村昌夫(テス大阪)0198.JPG

『レ・シルフィード』
詩人:後藤俊星、プレリュード:井上ひなた
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

貞松・浜田バレエ団「レ・シルフィード」撮影:岡村昌夫(テス大阪)0051.jpg

『レ・シルフィード』
詩人:後藤俊星、ワルツ:名村空、プレリュード:井上ひなた、マズルカ:上山榛名
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

2作目は『牧神の午後』、ジェローム・ロビンス振付のバレエの稽古場を舞台とした版だ。ベン・ヒューズの指導で、上山榛名と水城卓哉が踊った。観てつくづく、このバレエ団には、ニジンスキー版よりこの方が確実に合っていると実感。少なくとも今、現在は。ニジンスキー版にあるエジプトの壁画のような横向きの独特のポーズを思わせる形も見せつつ、バレエの稽古場での男女のほのかな恋心が描かれる──上山と水城の透明感、清潔感を感じさせる踊りに惹きこまれ、ラストの水城の切ない寝返りの余韻に浸った。

貞松・浜田バレエ団「牧神の午後」撮影:岡村昌夫(テス大阪)0354.jpg

『牧神の午後』上山榛名、水城卓哉
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

貞松・浜田バレエ団「牧神の午後」撮影:岡村昌夫(テス大阪)0393.jpg

『牧神の午後』上山榛名、水城卓哉
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

そしてラストは、貞松正一郎振付で、オペラ『イーゴリ公』からの『ボロヴェッツ人の踊り』。実力ある男性ダンサーを輩出しているこのバレエ団だが、こういった荒々しい男性の群舞を観る機会は、これまであまりなかったように思い、新鮮。だが、騎兵隊長の武藤天華が役の雰囲気を的確に体現していたとともに、いつも鮮やかなテクニックで沸かせてくれる副隊長の幸村恢麟、大門智、小森慶介を中心にチュルク人たちの男性群舞が盛り上げた。その群舞の中ながら目を引いたのは、佐々木嶺。これまで、優しい雰囲気の役の印象が強かった彼だが、こういった踊りになると、それとはまた違った作品の空気感を的確に体現するダンサーなのだと実感。
活き活きと勇ましさを持って踊る宮本萌のチャガ、憂いをもって美しいペルシャの女の竹中優花など、女性ダンサーもこの役ならこの人という人選がぴったりと合っているように感じながら観た。
(2022年5月22日 あましんアルカイックホール)

貞松・浜田バレエ団「ポロヴェッツ人の踊り」撮影:岡村昌夫(テス大阪)0609.jpg

『ポロヴェッツ人の踊り』
ペルシャの女(中央):竹中優花
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

貞松・浜田バレエ団「ポロヴェッツ人の踊り」撮影:岡村昌夫(テス大阪)0702.jpg

『ポロヴェッツ人の踊り』
騎兵隊長:武藤天華、イーゴリ公:芦内雄二郎、コンチャック汗:川村康二
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

貞松・浜田バレエ団「ポロヴェッツ人の踊り」撮影:大藤飛鳥(テス大阪)0487.jpg

『ポロヴェッツ人の踊り』コンチャック汗:川村康二
撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る