日本初演カィェターノ・ソト振付『Malasangre』ほか3作品──貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル33」

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル33」

『Malasangre』カィェターノ・ソト:振付、『波(NAMI)』稲尾芳文:振付、『囚われの国のアリス』森優貴:振付

毎回、世界の"今"のダンスを垣間見せてくれる貞松・浜田バレエ団の「創作リサイタル」。33回目の今回は、日本初演のカィェターノ・ソト振付『Malasangre』、今回のために稲尾芳文が振付けた世界初演となる『波(NAMI)』、そして昨年初演された森優貴振付『囚われの国のアリス』の3演目が上演された。

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『Malasangre』宮本萌、水城卓哉
撮影:田中 聡(テス大阪)

幕開けのカィェターノ・ソト振付『Malasangre』は、スターダンサーズ・バレエ団との共同制作で、田中絵美と飛永嘉尉が貞松・浜田バレエ団のダンサーとともに踊った。こういった試みは、普段別のバレエ団で活動するダンサーが刺激しあえるのはもちろん、関東圏と関西圏と離れたエリアの両方で上演機会が作れ、より多くの観客に届けることが可能になるなど様々な意味で意義のあることだと思う。キューバの歌手で、アーネスト・ヘミングウェイやジャン・ポール・サルトル、マーロン・ブランドにも愛されたというラテンの女王、グアダルーペ・ビクトリア・ヨリ・レイモンドへのオマージュ。イキの良い音楽に乗せたイキの良いダンス、レベルの高いダンサーたちの激しく鮮やかな動きにグイグイ引き込まれ、息も付かないうちに終わった。そんな激しさ、強さのなかに、ふと、"か弱さ"、"あやうさ"が見えるのも秀逸。

稲尾芳文の『波(NAMI)』は、19名の女性ダンサーと1人の男性、武藤天華が踊った。寄せては返す波、風に翻弄されるようでありながら、そうではなく抗う強さも見せる"波"。静かで詩的で心に染み入る踊り。このバレエ団の女性ダンサーたちは、こんな"芯の強さ"を見せることにとても優れているように思う。群舞としての表現力の高さを改めて認識させてくれた。

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『Malasangre』水城卓哉、飛永嘉尉
撮影:田中 聡(テス大阪)

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『Malasangre』
撮影:田中 聡(テス大阪)

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『波(NAMI)』
撮影:田中 聡(テス大阪)

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『波(NAMI)』
撮影:田中 聡(テス大阪)

そしてラストは森優貴振付『囚われの国のアリス』。シアターダンスのような魅力も感じさせる作品。だが、シンプルなストーリーを描いているのではなく、いく通りにも解釈できるようなレイヤーが多い感じ、深みを感じさせる創り方はさすが。そして、再演によって、さらにダンサーたちの表現もこなれてクリアーになったように思えた。アリスを思わせる上山榛名、ウサギを思わせる水城卓哉はもちろん、名村空、井上ひなたといった若手がそれぞれの個性を活かした表現で引き込んだ。"アリス"の物語そのものがそうだが、どこまでが現実でどこまでが虚構なのだろう──最近の世界を思うと、私たちみんながアリスと同じように、どこかに迷い込んでしまったように思えてくる。ここで私たちはどう動くのか、"囚われの国"から外へ歩み出すのか、"囚われの国"を内から変えていくのか──心のあり方からどうすべきなのか、、、思いを巡らせた。
(2022年3月19日 神戸文化ホール中ホール)

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『囚われの国のアリス』
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『囚われの国のアリス』上山榛名、名村空、水城卓哉
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『囚われの国のアリス』上山榛名、水城卓哉、井上ひなた
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『囚われの国のアリス』上山榛名、水城卓哉、ほか
撮影:田中 聡(テス大阪)

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