二山治雄を王子に迎えて──川口節子バレエ団『くるみ割り人形』

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

川口節子バレエ団

『くるみ割り人形』川口節子、松村一葉:振付

1998年に、当時のサンフランシスコ・シティバレエスクール芸術監督タマラ・ベネットと同バレエスクールの振付家ヘンリー・バーグを招いて創られた川口節子バレエ団の『くるみ割り人形』。アメリカでもっとも歴史あるバレエ団サンフランシスコ・バレエの初期の『くるみ──』を基に創られたもので、その後、上演のたびに細かく手を入れられながら、2年毎、12回目。昨年、惜しくもベネットが急逝し、作品を大切にする思いがさらに募るなかでの上演となった。音楽は稲垣宏樹指揮、中部フィルハーモニー交響楽団。稲垣のバレエ・ダンサーの気持ちに寄り添う指揮は、とても心地よい。
今回、もう1つのトピックスは、王子に二山治雄を迎えたこと。彼がローザンヌ国際バレエコンクール1位の後、サンフランシスコのトレイニープログラムで学んでいるのも、今回の出演の経緯と直接関係がないとしても不思議な縁のように思えてくる。

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撮影:和光写真

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人形(コロンビーヌ):若林桃子、人形(熊):南野高廣
撮影:和光写真

幕開け、大きなドアの外から、これからパーティーが行われる大広間を覗こうとするクララ(中森葵)とフリッツ(佐藤柚乃)のワクワク感が、観客の舞台へのワクワク感と重なる。そして、始まるパーティー。ドロッセルマイヤーのマジックの箱から、まず出てくる人形が、コロンビーヌとアレルキンではなく、コロンビーヌ(若林桃子)と熊(南野高廣)=クマの大きなぬいぐるみというのも可愛らしくて温かい気持ちになった。一方、ドロッセルマイヤー(梶田眞嗣)の助手をする甥(野黒美拓夢)が、クララに好感を抱いていることがさりげなく描かれる。この甥が、くるみ割り人形となり、くるみ割りの王子となり、お菓子の国に誘うのだ。野黒美は2年前にもこの役を踊っているが、今回もフレッシュな魅力を失わず好演。甥としての場面での、クララの手を取り離し難くなる場面の空気感は秀逸だった。

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雪の女王:川瀬莉奈、雪の王子:長谷川元志 撮影:和光写真

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金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥ
高橋莉子、二山治雄 撮影:和光写真

雪の情景での雪の女王は川瀬莉奈と長谷川元志。二人とも美しいスタイルに確かなバレエ技術。コール・ド・バレエとともに白のバレエを楽しませてくれた。
続いては、2幕のお菓子の国。このバレエ団で、いつもまず眼を奪われてしまうのは、とても小さなお菓子の国の王様(前川勝優)。バレエ好きだったルイ14世は4歳で即位したというけれど、こんな感じだったのだろうか?ーーつい、想像してしまう。ちょっとアメリカンな香りを感じる数々のディベルティスマンに続いて、花のワルツの中心ではバラの精の小澤祐貴子が踊り心たっぷりに。

そしてクライマックスは、高橋莉子と二山治雄の金平糖と王子のグラン・パ・ド・ドゥ。二山の動きはラインが美しく、質の良いバネのよう。ヨーロッパ芸術の根幹かと思えるような上方への意識が感じられるのも素晴らしい。高橋も、優しげで穏やか、良いグラン・パ・ド・ドゥだった。
 ラスト、小さな王様が、お辞儀をして、なんと(!)投げキッスをして大きく手を振りながら後ろに消えていく──クララの幸せな夢はさめる時が来たようだ。
(2021年12月24日 愛知県芸術劇場大ホール)

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クララ:中森葵 撮影:和光写真

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クララ:中森葵、くるみ割り王子:野黒美拓夢 撮影:和光写真

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王子:二山治雄 撮影:和光写真

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高橋莉子、二山治雄、他 撮影:和光写真

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