瀬島五月が振付けた新作『運命』を西宮きらきら母交響楽団の演奏で上演

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

第1回 T-raumダンスクリエーション

『運命』瀬島五月:振付、『夢境』三崎彩:振付、『a wake in my sleep』(映像)ユーリ・ン:振付

西宮きらきら母交響楽団の指揮者である田村ゆう子が、自らが観たいバレエ公演を創りたいと立ち上げたT-raumダンスクリエーション。コロナ禍で様々な変更を余儀なくされながらも、延期を経て開催された。関西ではまだ、録音上演のバレエ公演が多く、コロナ禍ではさらにその傾向が強まっているように見える。そんななか、生演奏で、この公演のために創られた新作を並べての公演が開催されたことが、まず意義のあることと思えた。
ところで、この西宮きらきら母交響楽団というのは、2014年に誕生した、ちょっと他にはないかも?と思えるアマチュアオーケストラで、小さな赤ちゃんや子どもを連れて練習も本番も活動できるオーケストラだ。今回の公演をプロデュースした田村を筆頭にバレエに深い関心を持つメンバーの方も多い様子。温かい雰囲気での公演となった。

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『運命』第1楽章 石本晴子、佐々木夢奈、飯田慧
撮影:文元克香(テス大阪)

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『運命』第2楽章
瀬島五月、アンドリュー・エルフィンストン
撮影:テス大阪

まず、上演されたのは瀬島五月振付、ベートーヴェンの『運命』全楽章。瀬島が立ち上げて公演を重ねているバレエ・カンパニー・ウエスト・ジャパンの公演にも出演している実力派ダンサー達が踊った。音楽を素直に受け止めて視覚化したような作品で、第1楽章を石本晴子、佐々木夢奈、飯田慧、第2楽章を瀬島五月、アンドリュー・エルフィンストン、第3楽章を片岡典子、藤本瑞紀、清田カレン、藤本華奈、吉田裕香、第4楽章を大久保彩香。どの楽章も見応えがあったが、優しい雰囲気を見せながら男女の愛を描いたように思える瀬島五月、アンドリュー・エルフィンストンが表現した第2楽章、そして圧倒的な存在感を持って大久保彩香が踊った第4楽章が特に印象に残った。

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『運命』第3楽章
片岡典子、藤本瑞紀、清田カレン、藤本華奈、吉田裕香
撮影:田中 聡(テス大阪)

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『運命』第4楽章
大久保彩香、アンドリュー・エルフィンストン、飯田慧
撮影:田中 聡(テス大阪)

続いては、ネザーランド・ダンス・シアター2(NDT2)で活躍した後フリーランスとして活動している三崎彩振付の『夢境』。三崎本人が出演予定だったが、延期によりままならなくなり、神戸女学院大学の後輩である貴島佳子と河野早百合が踊った。前半はチャイコフスキーの『くるみ割り人形』の前奏曲、後半はシェーンベルクの『浄夜』と、まったく違ったタイプの音楽を使いながら、人形のような美しい少女と黒で顔も覆われた不思議な存在が織りなす世界。クララの夢は、お菓子の国じゃなくて、こんなだったというのもアリかもしれない。
延期がなかったら、ドイツのヴォルフガング芸術大学舞踊科を卒業し、フリーランスとしてヨーロッパで活動している田村映水子が「フィガロの結婚」の序曲を使い振付け、山本優里歌と踊る『Déjà Vu』が上演される予定だったのだが、ヨーロッパに戻らないといけないスケジュールで、もともとの公演日に収録した映像が6月末までの期間限定でYouTube上にアップされていた。

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『夢境』貴島佳子、河野早百合
撮影:文元克香(テス大阪)

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『a wake in my sleep』ユーリ・ン
撮影:田中 聡(テス大阪)

そして最後は映像作品で、ユーリ・ンがマーラーの「アダージェット」に振付けた『a wake in my sleep』。彼は阪神・淡路大震災の後に、貞松・浜田バレエ団に招かれて震災後の神戸をテーマにした『眠れぬ森の美女』という作品を創っているが、その記憶も呼び起こしながら、現在の世界をみつめて創った映像作品。
今回は変更を余儀なくされることが多かったかと思うが、こういった新しい意欲的な作品を生の演奏に乗せて観せていく公演が続けて開催されていくことを期待したい。
(2021年6月23日 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール)

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オーケストラ:西宮きらきら母交響楽団
撮影:文元克香(テス大阪)

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カーテンコール 中央:田村ゆう子
撮影:テス大阪

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