「堀内元 バレエ・フューチャー 2021」のBalletとJazzによって、大阪に夢の一夜が生まれた!

ワールドレポート/大阪

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

「堀内元 バレエ・フューチャー 2021」

"Balanchivadze" "Le Sentiment" "Jazz à la française" 堀内元:振付、"Tschaikovsky Pas de Deux" ジョージ・バランシン:振付

2010年の「堀内元バレエUSA」以来、毎年開催されてきた堀内元芸術監督による公演も、昨年は新型コロナ禍のため中止せざるを得なかった。しかし今年は、「堀内元 バレエ・フューチャー 2021」として公演が開催された。今回は<バレエ×ジャズ>をコンセプトに、ジャズピアニストの桑原あいトリオを迎えて、メルパルクホール大阪で新シリーズが新たなスタートを切った。

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「バランチヴァーゼ」矢野まどか

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「バランチヴァーゼ」
撮影:イングルウッド近藤幸博(すべて)

まず、開幕は"Balanchivadze"(バランチヴァーゼ)。女性ダンサー5人(矢野まどか、藤原もえ、村中智、橋谷美香、池田紗弥)と男性ダンサー2人(豊永太優、上村崇人)がバッハの曲により踊る。新型コロナの感染拡大のため一つの公演で踊るダンサーの人数が制限された状況下のセントルイス・バレエに、堀内が振付けたもの。状況は異なるが、厳しい環境の中で初めてアメリカに素晴らしいバレエを育んだ堀内の師、ジョージ・バランシンへの想いを込めて振付けたという。ソロ、パ・ド・ドゥを混じえたバレエのテクニックのピュアーな美しさを展開させながら見せる舞台。洗練されたモダンな感覚の動きのシンプルな形が、無駄なく構成されていた。

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「ル・サンティモン」木村綾乃・末原雅広

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「ル・サンティモン」寺田亜沙子

やはり同様の条件下でバッハの曲に堀内が振付けた"Le Sentiment"(ル・サンティモン)は、喪失、怒り、喜び、憧れなどの様々な感情の発露を踊ってみせるもの。時系列やナラティブな要素によらず、人生の一コマをスライスして表したものと言っても良い。こうした角度から人間のもう一つの普遍的な姿を描こうと試みたもの、ということもできるかもしれない。女性ダンサー4人(北紗彩、椿井愛実、木村綾乃、寺田亜沙子)はそれぞれ淡い色のドレスで、男性ダンサー(末原雅広)はジーンズのパンツを着けて踊った。

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「ル・サンティモン」

第1部の最後は、米沢唯と速水渉悟が踊る"Tschaikovsky Pas de Deux"(チャイコフスキーパ・ド・ドゥ)だった。バランシン本来のスピード感のあるネオクラシック・スタイルの踊りは、SABのワガノワとブルノンヴィルに基づいた教育を受けたダンサーがバランシンの指導を受けて初めて踊ることができる、と私は単純に決め込んでいたのだが、今回の舞台はその思い込みを見事に吹き飛ばしてくれた。米沢唯の『チャイコフスキーパ・ド・ドゥ』は何回か観てきたが、見る度に着実に進化してきている。もちろん、パートナーの速水の軽快な動きも良かったから、見事な舞台が出来上がった。動きのディテールを省略することなく踊ったので、クラシック・バレエとは異なったバランシン本来のスタイルを観ることができた。米沢・速水の努力と堀内の指導が実を結んだのである。今後も継承されて欲しいと思う。

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「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」米沢唯・速水渉悟

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「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」米沢唯・速水渉悟

第2部はジャズ×バレエ。
「2年前に元さんから声をかけられて」今年やっと実現した、という桑原あいのピアノ演奏「亡き王女のためのパヴァーヌの主題による即興」から始まり、トリオ(ベース・古木佳祐、ドラム・山田玲)による桑原作曲 "Dear Family"、そして次に踊られる"Jazz à la française" に合わせてミッシェル・ルグランの「シェルブールの雨傘」が演奏された。ノリのいい迫力のあるピアノが引っ張り、ベースとドラムが応える素晴らしい演奏で、会場はたちまちグルーヴィーな雰囲気に染まり身体を動かさずにはいられなくなり、嬉しくなった。桑原あいは、モントルー・ジャズ・フェスティバルなど多くのライヴ活動を行い、TV番組「サタデーステーション」他のオープニングテーマでも知られる。2019年にはディズニー楽曲のカバーアルバム「My First Disney Jazz」をリリースしている。

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桑原あいソロ演奏

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桑原あいトリオ演奏

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「ジャズ・ア・ラ・フランセーズ」飯島望未・堀内元

そして"Ballt Jazz"。クロード・ボリングの曲を桑原あいトリオが演奏し、堀内元が振付けた"Jazz à la française"(ジャズ・ア・ラ・フランセーズ)』の幕が開いた。
プリンシパルの堀内元は黒のショートパンツと紺色のトップ、飯島望未は鮮烈なスカーレットのドレスに真紅のバラを髪に飾る。男性ダンサー(岡田兼宜、末原雅広、上村崇人、高須佑治、栗野竜一、西田卓樹)は黒のショートパンツに白のトップ、女性ダンサー(椿井愛実、矢野まどか、村中智、北紗彩、藤原もえ、橋谷美香)は黒のドレスに、やはり真紅のバラを髪に飾った。とてもシックな色彩が舞台に映えた。軽快なアップテンポの踊りに、華やかなチャールストンなども混じえて、全体のステップが巧みにバランス良く構成されていた。ニューヨークなどの国際舞台で踊り、自身のカンパニーに作品を創り育て上げてきた堀内元ならではの洒落た舞台で、ジャズの煌めきをフランス風の粋なセンスで彩っていた。客席とダンスと音楽とすべてが一体となった大阪の夢の一夜であった。
(2021年7月17日 メルパルクホール大阪)

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「ジャズ・ア・ラ・フランセーズ」飯島望未

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「ジャズ・ア・ラ・フランセーズ」

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「ジャズ・ア・ラ・フランセーズ」

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「ジャズ・ア・ラ・フランセーズ」

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「ジャズ・ア・ラ・フランセーズ」  © イングルウッド近藤幸博(すべて)


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