イリ・キリアン、コーラ・ボス・クルーセ&ケン・オソラ、森優貴の振付作品を上演──貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル32」

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル32」

『Falling Angels』イリ・キリアン:振付、『Of Eden』コーラ・ボス・クルーセ&ケン・オソラ:振付、『囚われの国アリス』森優貴:振付

作品を創りあげるためのリハーサルを重ねるにも何かと制約の多い新型コロナ禍にもかかわらず、2つの新作を含むトリプルビルで行われた貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル32」。

幕開けは再演でイリ・キリアンの名作『Falling Angels』。スティーブ・ライヒの音楽に乗って、女性ダンサー8人が、ユーモアもまじえて様々な感情を表現するこの作品。
今回は、正木志保、竹中優花、佐々木優希、廣岡奈美、角洋子、福田咲希、上山榛名、宮本萌が踊った。実力派ダンサー揃いで見応えがあったが、毒のあまりない"良い人"のイメージが滲み出るダンサーが多く、もうちょっと"Falling"="堕ちゆく"感じが強く出てもいいかもしれない。

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『Falling Angels 』佐々木優希、角洋子、ほか
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『Falling Angels 』宮本萌
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『Falling Angels 』 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『Of Eden』清田奈保、大門智
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

2つ目は、イリ・キリアンのもとNDTで活躍したコーラ・ボス・クルーセとケン・オソラが共同で振付けた『Of Eden』。この作品は新作、本来ならば、2人が来日するところだが、新型コロナ禍で叶わず、時差を超えて、パソコン画面を通じたオンラインでリハーサルを重ねて仕上げられた。
"Of Eden"="エデンについて"、と題されたこの作品、男性と女性、本能と理性、動物と人間......とはいえ人間も動物のなかの一つで......と思い巡らさせ、違いって何だろう? 人間って何だろう? と根源的なことを考えさせてくれた。動物的な荒々しさを見せたと思ったら、動物的だからこその優美さが見えたり......。
ペア4組が踊る形で、上山榛名&水城卓哉、清田奈保&大門智、宮本萌&切通理夢の3組の男女に加え、女性の竹中優花&角洋子という構成ということにも意味を感じる。

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『Of Eden』上山榛名、水城卓哉
撮影:中原健吉(テス大阪)

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『Of Eden』竹中優花、角洋子
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

そしてラストは、森優貴の新作『囚われの国のアリス』。この団体出身で、ドイツで長く活躍してきた森。ドイツのレーゲンスブルク歌劇場芸術監督時代、現地では物語のあるものを創ることもよくあったようだが、日本で貞松・浜田バレエ団に振り付けたものは、アブストラクトの傾向が強かったように思う。
だが、今回はタイトルからも予想できるように『不思議の国アリス』『鏡の国のアリス』から想を得た作品。もちろん、森らしく現代を見つめ、自らに問い、そして観客に問いかける作品に仕上がっていた。

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『囚われの国のアリス』上山榛名、ほか  撮影:岡村昌夫(テス大阪)

まるでミュージカルやショーのような幕開けで観客を引き込みながら、次第に自らを見つめさせ、考えさせる。アリスを思わせる役を踊ったのは上山榛名、彼女はラスト、舞台上のその場で、自らの強い意志を感じさせる目でしっかりと立つ。対して、ウサギを思わせる水城卓哉は舞台から降り、客席中央通路をゆっくりと進んで行く。
"囚われた"(それはもちろん物理的な意味にとどまらず)ところから、そこにいて自ら変えていこうとするアリスと、そこから出て新たな道を進もうとするウサギ。どちらもが、ただ囚われているのではなく解決に向かって進む──すがすがしい希望の見える作品だった。
(2021年3月20日 神戸文化ホール・中ホール)

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『囚われの国のアリス』上山榛名、水城卓哉、ほか  撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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