新作『パンデミック』から堀川美和振付作品が3部構成により上演──堀川美和コレオグラフィックパフォーマンス2020

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

堀川美和バレエスタジオ

堀川美和:振付『パンデミック』ほか

堀川美和が振付けた作品群の公演。堀川の作品を踊りたいと願う関西のダンサーは多く、彼女の作品に惹かれた良いダンサーたちが集い、見応えのある舞台となった。

この新型コロナ禍での想いが込められた作品が並んだように感じられた3部構成。1部の幕開けは『命』。チャン・スジョンのピアノ演奏、蘇宏基の優しい歌声に乗り、大前光市とジュニアダンサーたちが踊る。義足を外した状態の大前の激しい踊り、その力強さに呼応するように、ジュニアたちもしっかりとした足取りと視線で力強さを感じさせたのが印象に残った。

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『ラ・シルフィード』田中月乃、樋上諒
撮影:Studio nikeちょうのあつこ(すべて)

クラシックも2つ上演された。『ラ・シルフィード』のパ・ド・ドゥを踊ったのは、田中月乃と樋上諒。ニコニコと喜びが広がるような田中の踊り、軽く伸びやかな動きが目を惹いた樋上、二人とも若さ溢れるフレッシュな魅力で、観ていて明るい気持ちになった。また、『海賊』のパ・ド・トロワは、メドーラを成田紗弥、コンラッドを田中陣之介、アリを山本あらた。成田はさすがに輝くような華やかさで、一つひとつの動きに余韻を感じさせるのが良い。加えて、コーダでのフェッテも2回に1回ダブルを入れるなど鮮やか、コンラッドの田中もテクニカルに盛り上げた。そして若手注目株の山本、しなやかな筋肉でスパッと決まるポーズも良く、これからどんどん伸びそうで楽しみだ。

堀川振付の再演作品で特に目を引いたものが2つ。まず、福谷葉子と西岡憲吾が踊った『Ameno』は、何か"宿命"のようなものを感じさせる秀作。また、ラヴェルの曲での『ボレロ』は女性群舞。特に中心を踊った貝阿彌みこの自信に溢れた意思の強さを感じさせる踊りにぐいぐい引き込まれて、後半になると彼女から目が離せなくなった。

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『Ameno』福谷葉子、西岡憲吾

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『ボレロ』貝阿彌みこ、河森睦生、斉藤綾子他

そしてラスト、3部が今回の新作、新型コロナ禍を描いた『パンデミック』だ。大前光市が不気味にコロナウィルスを演じ、そのウィルスにかかるとあっという間に老人("死"という役のサイトウマコト)は命を落としてしまうところから始まる中作品。外出制限、失業、貧困等のストレスからの家庭内の問題を、児童虐待として貝阿彌みこと蘇宏基が演じたり、失業からのDVだろうか、河森睦生と山口章が苦悩するカップルを演じたり。また、会いたくてもリモートでしか会えない、触れあえないカップルを透明感を持って宮原由紀夫と斉藤綾子が踊ったり。この新型コロナ禍で、感染による病や死という問題だけにとどまらない、それによっての社会的な変化がどれだけ起こっているのかが紡がれており、とても興味深かった。
(12月30日、兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール)

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『パンデミック』リモート愛:宮原由紀夫、斉藤綾子

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『パンデミック』苦悩:河森睦生、山口章

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『パンデミック』コロナウィルス:大前光市

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『パンデミック』児童虐待:貝阿彌みこ、蘇宏基

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『パンデミック』コロナウィルス:大前光市、新宿歌舞伎町:西岡憲吾、田中陣之介、山本あらた、児童虐待:貝阿彌みこ、蘇宏基、リモート愛:宮原由紀夫、斉藤綾子、苦悩:河森睦生、山口章
撮影:Studio nikeちょうのあつこ(すべて)

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