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エリック・カミーヨ版『眠れる森の美女』、京都バレエ団のダンサーたちの軽やかなアンサブルが印象的だった

ワールドレポート/京都

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

京都バレエ団

『眠れる森の美女』エリック・カミーヨ:構成、演出、振付、指導

京都バレエ団の有馬えり子代表はかねてより、フランス・スタイルに磨きをかけているカンパニーを象徴的に現す『眠れる森の美女』の優れたヴァージョンをレパートリーに入れたい、と思っていた。そしてしばしば京都バレエ団に教えに訪れていた、パリ・オペラ座バレエ学校の練達の教師エリック・カミーヨの「クラシック・バレエの品格を極めた『眠れる森の美女』を振付たい」、という趣旨の提案を受けて新制作をすることを決めたと言う。
当初、東京オリンピック開催式直後の7月25日に初演する予定だったが、新型コロナの感染拡大に影響を受けて変更された。さらに、主要な役を踊る予定だったオペラ座バレエのダンサーたちを招聘することも不可能となった。構成・演出・振付・指導を託したエリック・カミーヨの来日までもが危ぶまれたが、各方面に奔走してなんとか二週間の隔離期間をおいて来日することが叶った。そしてカミーヨは、容易に帰国することが出来なくなり、3ヶ月に渡って京都バレエ団のダンサーたちを腰を落ち着けて指導することになったわけである。たとえすべてのことが順調に運んでいても、全3幕の「バレエの中のバレエ」と言われる作品を世界初演することは大変な仕事なのだから、今日の状況の中での困難は推察するにあまりある。

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撮影/瀬戸秀美(すべて)

『眠れる森の美女』は良く知られているように、ロシア人の帝室劇場支配人の発想により、フランス人の振付家とロシア人の作曲家が創作し、1890年にサンクトペテルブルクで初演された。そして21世紀の今日、ロシア人のルドルフ・ヌレエフの薫陶を受けたフランス人のエリック・カミーヨが、日本の京都バレエ団とともに新制作を行なった。クラシック・バレエという言葉を主体としない舞台芸術の伝統が、このように継承発展を可能としている。
カミーヨ版『眠れる森の美女』は、プロローグの開幕とともに、12人の女友だちと6人の妖精たちが踊ったが、まず、印象的だったのはダンサーたちのポワントの軽やかさだった。一糸乱れずに揃っているという全体性もさることながら、なによりも個々のダンサーのポワントが生き生きと輝いて柔らかに感じられた。もともと京都バレエ団のダンサーたちのステップは軽快であり、『ジゼル』(2019年)の時もそれは良く感じられた。ただ『ジゼル』で踊られた女性たちは村娘でありウィリだった。今回の『眠れる森の美女』では、まず、それぞれのダンサーたちが作品を良く理解し、カミーヨの懇切な指導のもと優雅さを表そうという心を明快に表して踊っていた。無論、それぞれのダンサーたちが心に描く優雅さではあるが、それがくっきりと表現され、ダンサーたちの個性がアンサンブルをなしていたのである。
カミーヨは『眠れる森の美女』という作品は、王制への讃美歌をバレエで表したもの、と言っているが、このプロローグでは、6人の妖精たちを中心に、登場人物たちはそれぞれの声で王への讃美歌を歌い祝福を贈り、観客もそれを受け止めていたことが感じられた。

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藤川雅子、横江舞

カミーヨの振付もまた良く調えられ、舞台全体で動きを共鳴させて美しい効果をあげた。たとえばプロローグの群舞と第2幕の群舞の動きとフォーメーションは、意識的に変化をつけて振付けられていた。しかしもちろんそれはただ単に異なっていたのではなく、基盤は通底しており、作品としての統一性を持って幕を越えて共鳴していた。
演出はオーソドックスで分かり易い。通常、省かれることも多い編み棒のエピソードも、多く子供たちにそれを持たせ、藤川雅子扮する悪の妖精カラボスが我が物顔に暴れまわった後には、悪の種子が蔓延するという現実を巧まずして表していた。そしてカラボスの横暴と王妃の優しさ、王の寛大さがコントラストを見せるのであるが、そこには善の危うさ頼りなさもまた自ずと現れていた。
第2幕のデジレ王子が百年の眠りについているオーロラの宮殿に、リラの精(佐々木朝彩)の暗示によりたどり着くまでは、多くの演出家が様々な工夫を凝らす場面である。カミーヨはここをスモークと沙幕を使って(経済的に)実に巧みに演出した。この場面の演出は、百年後を生きる王子を百年前に凍結された王宮へと導く、と言う童話的な難しい表現だが、なかなかの説得力があって大いに感心させられた。

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佐竹桃華、福島元哉

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光永百花、水井駿介

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前澤芽依、多田遥

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3幕はポロネーズ、宝石のパ・ド・サンクなどが踊られて豪華な踊りで開幕する。お楽しみのデヴェルテスマンは「猫たち」(前澤芽依、多田遥)「赤ずきんちゃん」(佐竹桃華、福島元哉)、そして「青い鳥とフロリンヌ王女」は牧阿佐美バレヱ団の光永百花と水井駿介がゲスト出演して踊り印象を残した。
主役のオーロラ姫を踊ったのは北野優香。オーロラ・デビューという大変な大役だったので、やはり、最初は緊張しているのが感じられた。しかし難関のローズアダージオを踊り終わると落ち着きを取り戻し、第2幕はしっかりと踊りきった。見事なスタイルの良さと優雅さを表す才能は十分あると思われる。あるいはまだ、自分の声で歌ったとは言い切れないかも知れないが、これからさらに踊り込んでいけば優れた表現を表してくることだろう。
デジレ王子を踊った鷲尾佳凛は、堂々とした舞台姿でよかった。インタビューでも「力まないように」と言っていた通り、スローなパートも優雅さを心がけて踊り、躍動感も失わなかった。最後のグラン・パ・ド・ドゥは北野優香と鷲尾佳凛がともに、練習の成果を見せて豪華に締めくくった。そしてこの祝典バレエは多くの曲折を経た上で、無事に幕を下ろしたのだった。
(2021年1月9日 滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール 大ホール)

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北野優香、鷲尾佳凛

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北野優香、鷲尾佳凛 撮影/瀬戸秀美(すべて)

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