『白鳥の湖』第4幕を川口節子が大胆に読みなおした『SWAN LAKE』など──川口節子バレエ団「舞浪漫 My Roman2020」

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

川口節子バレエ団

「舞浪漫2029」『家族の肖像』『告白』『SWAN LAKE』川口節子:振付、『Pieces of Enchantment』『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』『アメリカン・ファンファーレ』『Cocktails』)松村一葉:振付

川口節子バレエ団の創作作品を上演する公演「舞浪漫 My Roman2020」。近年は特に、比較的物語性のあるものが多い川口節子の作品群と、娘である松村一葉のアブストラクトなものが多い作品群が交互に上演され、変化に富んだ構成で見応えがある。
今回、第1部で過去に高評価だった小作品の再演、第2部で松村一葉振付『Cocktails』を初演時と曲も振付も一新して、第3部は川口節子が振付けた『白鳥の湖』第4幕ベースにした新作が上演された。

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『Pieces of Enchantment』撮影:杉原一馬(和光写真)

まず第1部、幕開けは、松村一葉が2008年に振付けた『Pieces of Enchantment』。黒に短いグリーンのチュールスカートを着けてポアントを履いた女の子達に数人の男の子も入ってのニコニコと明るい笑顔が弾けるオープニングにぴったりの作品だった。続いても松村の振付で、2020年秋初演の『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』。脱力しての動きも良い感じで、ユーモアのセンスも良い。
3つ目の演目はガラッと変わって川口節子が1993年に振付けた『家族の肖像』。まだ未就学の小さな男の子(前川勝優)が背中を向けてソファに集う大家族の写真を見ているところから始まる。男の子が駆け寄ると、その写真は現実の人々となり、幸せな家族から可愛がられ育つ男の子。だがやがて、戦争の影が忍び寄り、一人、また一人と命を落としていく。最後の場面、最初と同じように男の子は駆け寄るが、そこには誰もいない、ソファだけ。戦争の酷さを静かに描いた名作だ。まだ小さな前川の名演にも拍手を贈りたい。
次は、また明るく、松村一葉振付で昨年秋初演の『アメリカン・ファンファーレ』。赤と紺のおもちゃの兵隊人形のような衣装で華やかに盛り上げた。第1部最後は川口節子が1996年に振付けた『告白』、椅子を効果的に使いながら何かを訴える人々を描いた群舞だ。
第2部、松村一葉振付『Cocktails』は、バーカウンターから始まる。客役の安藤恵子のぐでんぐでんに酔っ払った演技でお酒の世界にに誘われると、チュチュ姿のカクテルたちが踊り出す。赤いチュチュのコスモポリタン(5日:吉田美生、6日:小澤祐貴子)、グリーンチュチュのメロンボール(高橋莉子)、ブルーのチュチュのブルーハワイ(5日:小澤祐貴子、6日:吉田美生)、白いチュチュのシャンパーニュ(杉本麻由)、ピンクのチュチュのベリーニ(中森葵)、それぞれ、クラシックをきちんと学んでいることを思わせる動きに加え、それぞれ個々の魅力を観せてくれた。リキュールズの群舞も楽しく、バーテンダー役の梶田眞嗣(6日、5日は長谷川元志)が場を引き締めていた。

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『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』
撮影:杉原一馬(和光写真)

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『アメリカン・ファンファーレ』
撮影:竹内俊司(和光写真)

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『家族の肖像』前川勝優(一番小さい少年)
撮影:杉原一馬(和光写真)

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『Cocktails』
撮影:杉原一馬(和光写真)

そして最後、第3幕が川口節子振付『SWAN LAKE』。『白鳥の湖』の第4幕はとても重要な場面だと理解しながらも、全幕を観る時は、つい、その頃には集中力が途切れてしまっていたり......。だが、あらためて、さまざまな解釈が可能な奥深い幕であることを実感した。今回の川口振付、音楽は聴き慣れたチャイコフスキーの『白鳥の湖』4幕そのままだ。だが、ポアントではなく動きはコンテンポラリー。そして、オデット(川瀬莉奈、5日は高橋莉子)は、王子(野黒美拓夢)が何度謝っても、すがっても、振り払い、時には突き飛ばし、許さない。──確かに、あんな間違いされたら、これくらい怒りたいよね、と、なんだかスッと納得してしまう。加えて、ロットバルト(長谷川元志、5日は梶田眞嗣)を倒すのは王子ではなく、白鳥たちの群舞。倒して丸裸にしてしまう、断末魔のロットバルトのソロは圧巻、踊れるダンサーだからこそ、だ。オデットはロットバルトが倒されてあっけに取られるが救われて、最後はめでたしめでたし。王子と寄り添い歩み出す。独創性豊かで、踊りのメリハリ、迫力もたっぷり、目が離せない作品に仕上がっていた。
(2020年12月6日、名古屋市芸術創造センター)

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『SWAN LAKE』オデット姫:川瀬莉奈
撮影:杉原一馬(和光写真)

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『SWAN LAKE』オデット姫:川瀬莉奈、ジークフリート王子:野黒美拓夢、ロットバルト:長谷川元志
撮影:杉原一馬(和光写真)

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『SWAN LAKE』川瀬莉奈、野黒美拓夢
撮影:杉原一馬(和光写真)

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『SWAN LAKE』
撮影:杉原一馬(和光写真)

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