カミーヨ版『眠れる森の美女』初演を踊る、藤川雅子・カラボス、北野優香・オーロラ姫、鷲尾佳凛・デジレ王子が初役について語った

ワールドレポート/京都

インタビュー=関口 紘一

カラボスを踊る、藤川雅子=インタビュー

――藤川さんは京都バレエ専門学校で学ばれて、フランスのコンクールなどで優秀な成績を収められています。また、ウィーンやドイツ、ハンガリーなどでも踊られていますが、フランス流のスタイルはどういう点が優れていると思いますか。

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藤川 フランスのスタイルはポール・ドゥ・ブラがすごく綺麗で、基本に忠実、絶対5番は5番でアン・ドゥオールはアン・ドゥオールで、きっちりとしたメソッドがあります。方向とか足の角度とか、本当にお手本みたいな感じで、国によってスタイルが違いますが、一番きちんとしています。

――京都バレエ団でカール・パケットやオニール 八菜ほか多くのオペラ座のダンサーと共演されています。最も印象的だった舞台を教えてください。

藤川 どの舞台も印象的でしたが、やっぱり、昨年のカール・パケットの引退公演『ジゼル』で、私はミルタを踊りました。この公演が印象深いです。
パリ・オペラ座のエトワールは、私たちの知らない厳しい環境の中で苦労もされているし、いろいろとお話を聞くと、レッスンも非常に厳しいです。カールなども気軽に話しかけてくれます。でも外部には決して見せませんが、すごい努力はしてますし、私たちが想像できないようなこともいろいろと経験されてきています。ですからきっと、それが舞台に出るんだろうな、という印象を受けました。ですが、みんなさんすごく優しいです。レッスンも本当に真面目に、誰よりも真剣に受けています。そして京都バレエに来られた方は、皆さん、カミーヨ先生をすごく慕っていてその信頼関係の強さが印象に残っています。

――エトワールはやはり特別な人ですか。

藤川 はい、もう、スタジオに入って来られた時からオーラが違います。皆さんエトワールであることを鼻にかけたりするようなことは決してしませんし、すごくフレンドリーに、私たちに気を遣わせないようにしてくださいます。舞台の上でもそうですし、とても優しく接してくださいます。

――カミーヨ先生はどんな先生ですか。

藤川 ダンサーとしても教師としても人間としても尊敬します。お稽古中も絶対に声を荒げるようなことはないです。決して諦めずに本当に一人ひとりに合った注意を与えてくださいます。もちろん言葉の壁はあるのですが、教える人にわかるようにちゃんと形にして見せて教えてくださいます。

――厳しいことを言われたことはありませんか。

藤川 もちろん、バレエに対しては厳しいですが、厳しく注意されたことはないです。自分が悪いから(笑)その通り、と。厳しいとかきついと思ったことはありません。リハーサルは楽しいし、毎回毎回一回づつのリハーサルが勉強になります。新しい発見がとても多いです。

――藤川さんは今回の『眠れる森の美女』でカラボスを踊られますね。バレリーナの方って、悪役を配役されるとすごく喜ぶと言われますが、いかがですか。

藤川 そうなんです!実はカラボスを踊るんです。私は全く配役されるとは思ってもいなかったのですが、カミーヨ先生が「雅子にカラボスを踊らせようか」とか、おっしゃっていたらしくて、「え、えっ」と思っていました。私はそういうキャラクターじゃないと思っていましたので。カラボスは強いキャクターなので、オペラ座のDVDなどを見てあんな風に踊れるのだろうか、喜びより不安しかなかったです。
でも振りをいただいて、結構難しいですけれど楽しいです。「死ね」とか、普段は言わないことを舞台ではっきりと言ってしまう。それも結構強調されますし。リハーサルでは「地でいけ」とみんなに言われますが・・・。

――でも、それは冒険ですね。

藤川 私にとっても新しい発見というか、見出していただいて、振りもオリジナルなので、「こんなカラボスもあるんだ」と思いました。すごくわかりやすいです。とても不安だったのですが、振りをいただいて案外とすんなりと役に入れました。さすがなだな、と感じました。10年もいろいろと教えていただきながら一緒でしたので、「あっ、やっぱり知ってるんだ、私より私のことをよく理解しているんだ」と思いました。

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――最後に、石井潤の『カルミナ・ブラーナ』を踊られたのですね、よかったですね。私はあの作品を以前に観て大変感激しました。

藤川 あれは私にとって、掛け替えのない宝物になりました。寺田美砂子さんが丁寧に教えてくださいました。石井先生の作品は今まで踊ったことがなかったのですが、美砂子さんの踊りは大好きでした。自分も『カルミナ・ブラーナ』を踊って成長することができましたし、あの舞台を経験させていただいたことは自分にとって本当に良い経験になりました。

――でも、踊り切るのは大変でしたでしょう。

藤川 はい、大変でした!長いですし。ロームシアターで踊ったのですが、それまでは小さいホールでの上演が多かったそうで、大きな舞台で上演するための試行錯誤をしながらでしたが、すごく良い思い出です。

――本日はリハーサルでお忙しいところをお時間をとっていただいてありがとうございました。


オーロラ姫を踊る、北野優香=インタビュー

――『眠れる森の美女』全幕は踊られたことはありますか。

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北野 いえ、全幕を踊るのは今回が初めてです。

――するとオーロラ・デビューとなりますね、いかがですか。

北野 もともとパリ・オペラ座のエトワールの方が来日されて踊る予定でしたが、新型コロナ感染拡大の影響で日本に来られなくなり、代わって踊ることになりました。エトワールのイメージのように踊れないと思う不安が一番先に浮かびました。

――オーロラ姫はプロローグ以外ほとんど踊りっぱなしです。身体的にも大変ですね。

北野 それについても少し心配でした。全幕を踊り切るのはやはり本当に大変ですから。

――ガラ・コンサートなどではもちろん、踊ってらっしゃると思いますが。

北野 ですが、やはり全幕となると踊りだけではなくて、作品として物語の世界をお客様に感じとっていただかなければなりません。踊りはもちろんですが、カミーヨ先生が創る『眠れる森の美女』の全体像を観客の皆様に、より良く伝えられるように舞台に立ちたいと思います。オーロラ役として観ていただいて、そういった部分をいろいろと感じながら観ていただきたいと思います。

――第1幕の出のところも見せなければなりませんしね。

北野 緊張します!

――実際に、オーロラ姫役をカミーヨ先生に教えていただいていかがですか。

北野 今回はカミーヨ先生が長く滞在してくださったので、まず身体の部分をよく観ていただくことができました。1から教えていただくと、やっぱり身体が変わってきます。筋肉の付き方が変わってきました。そこからオペラ座スタイルを少しづつ習得して、それを舞台で、今までの自分ではなく身体作りから入って習得しつつある踊りで、カミーヨ先生の『眠れる森の美女』を充分に伝えられるように、と努力しています。身体はちょっと痛いですが、筋肉がとても使いやすくなりました。今は、身体が先生のおっしゃっていることを少しづつできるようになってきています。今までと全然違っていて、自然に様々な表現をできるようになってきました。

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――『ドン・キホーテ』や『パキータ』など多くのパリ・オペラ座バレエのダンサーたちと舞台に立たれていますが、最も印象的だった舞台は何ですか。また、共演したオペラ座のダンサーで印象的だった人は誰ですか。

北野 オペラ座のダンサーの方は皆さんキラキラしている方ばかりです。もちろん、持っているものは素晴らしいのですが、自ずと何かを感じさせるものがあります。身体の綺麗さはもちろんですが、そういうことを含めて何かを印象付けるものがあるのです。
『ドン・キホーテ』でオニール 八菜さんと共演した時には、言葉の壁がなかったのでいろいろとやりやすかったですし、通じ合えた部分もありました。

――オーロラ姫を踊って卒業したら、つぎに踊ってみたいバレエは何ですか。

北野 まず、今回のリハーサル期間で習得したことを、もちろん本番で発揮できるように準備します。でも今、教えていただいているものは9日の本番の舞台以後にも使えることばかりなので、これからもどんどん生かして踊っていきたいです。私の中で、今、学んでいることを必ず次の役のために発展させていきたいと思っています。

――本日はリハーサルでお忙しいところをお時間をとっていただいてありがとうございました。


デジレ王子を踊る、鷲尾佳凛=インタビュー

――デジレ王子を踊られるのは初めてですか。

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鷲尾 そうですね、ジョージア・バレエ団にいた時にファジェーチェフ振付の『眠れる森の美女』を初演したのですが、その時にはアンダーで練習していました。

――デジレ王子をどのように表現できたらいいな、と思いますか。

鷲尾 僕は踊っている時にどうしても力が入ってしまって、踊りのシーンでなくても普通に歩く時とか、そういう時も力が入りがちになるので、力の抜けた、カミーヨ先生がおっしゃているようにエレガンスなスタイルを持ったデジレ王子を踊っていきたいなと思っています。

――カミーヨ先生の教えはいかがですか。

鷲尾 カミーヨ先生がおっしゃっていたことと繋がるのですが、まず、今回3ヶ月という長い期間いていただいたことで、身体の使い方を1から変えること、カミーヨ先生がおっしゃる土台作りから、もう一度ゼロから始めるところから始まって、最初のうちはおっしゃっていることが理解できない、言われていることをやってもうまくいかない、という状態が続いていて、僕自身もどうすればいいかわからなくなってしまいました。しかし、先生を信頼しておっしゃっていることを続けているうちに、今、少しづつわかるようになってきています。カミーヨ先生は誰よりも僕の可能性を信頼してくださって、僕自身ができないと思っていた身体の使い方も、君には絶対できるはずだ、と教えてくださいました。それは、今も僕の課題として、厳しく教えていただいています。
カミーヨ先生はすごくプロフェッショナルで、「こここうしてみて」とおっしゃったことを僕がやってみて、それがうまくいかなくてもまた別のアプローチをしてくださいます。一人ひとりに適した指導の仕方をなさっています。目指すところを、僕らはパリ・オペラ座のエトワールを目指してしまいがちですが、カミーヨ先生は一人一人ができるはず、と思うところを目指してご指導くださっています。僕たちも先入観には囚われず、自分の身体が動きやすいように指導してもらえます。そこは本当に信頼できるで先生だと思っています。

――ジョージア・バレエ団に入団されたのは、ベルリンのコンクールで芸術監督のアナニアシヴィリから直接、声をかけられたのですか。

鷲尾 はい、ニーナ・アナニアシヴィリが審査員で来ていて、僕のポルトガルの先生とはお知り合いだったのですが、カンパニーに来ないか、と声をかけていただきました。

――ジョージア・バレエ団のことは前からご存知でしたか。

鷲尾 いえ、実は全く知りませんでした。もちろん、アナニアシヴィリのことは知っていましたが、ジョージアってグルジアのことだったのですね。後から知ったジョージアのダンサーはいるのですが、当時は全然知らなかったのです。

――ジョージア・バレエ団に入団してみていかがでしたか。

鷲尾 すごく刺激的と言うか、僕が入団して2年目にオペラ劇場がリニューアルしてオープンしました。柿落としは、ジョージア出身の著名なダンサーで振付家でもあったチャブキアーニの『ゴルダー』の復活上演でした。ジョージアのオペラ劇場の柿落としで踊れたことはとても良い経験でした。
ジョージアでは、ジョージア・ダンスと言う民族舞踊が盛んで、優れたキャラクター・ダンスのダンサーが多いみたいです。

――アナニアシヴィリと『薔薇の精』を踊りましたね。

鷲尾 はい。まず、ジョージアの劇場のガラ・コンサートで踊る機会があって、その後、ベラルーシで行われたアンドリス・リエパのガラで、ニーナと踊る予定だったボリショイ・バレエのソリストのヤコボ・ツッシが怪我してしまったので、急遽、本番二日前に「あなたベラルーシに行くわよ」って言われました。およそ1年ぶりでしたが、当日、劇場でリハーサルしてぶっつけ本番のように踊りました。

――これから、どういったダンサーを目指しますか。

鷲尾 僕の強みは、ジョージアで6年半くらい踊りましたし、京都に帰ってきたらパリ・オペラ座の先生が教えてくださる、ということでいろんなスタイルを学んでいます。ブルノンヴィルの先生にも教わりましたし、バランシンの先生にも教わりました。そう言う色々なスタイルを持って日本で踊っているダンサーはそんなに数はまだ多くないと思います。著名な振付家に直接教わった先生から学んだことは、僕の財産だと思っています。そう言うことを大切にしながら、伝えていくようになれたらいいな、と思っています。

――本日はリハーサルでお忙しいところをお時間をとっていただいてありがとうございました。

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有馬龍子記念 京都バレエ団『眠れる森の美女』全幕

●2021年1月9日(土)17時15分開場/18時開演
●滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール

構成・演出・振付・指導:エリック・カミーヨ(国立パリ・オペラ座バレエ学校教師)
企画・制作=有馬えり子
演奏:びわこの風オーケストラ
指揮:江藤勝己

公演の詳細は http://www.kyoto-ballet-academy.com/a_ballet.php

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