「バレエ・リュスと美術家たち」薄井憲二バレエ・コレクション特別展が開催される

ワールドレポート/大阪

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

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ロベルト・モンテネグロ「ペトルーシュカ」
図版提供・兵庫県立芸術文化センター 薄井憲二バレエ・コレクション

兵庫県立芸術文化センター所蔵の薄井憲二バレエ・コレクション特別展「バレエ・リュスと美術家たち」が、11月21日(土)から12月13日(日)まで尼崎市総合文化センター 美術ホールで開催される。
バレエ・リュス(ロシア・バレエ)は、よく知られているようにセルゲイ・デイアギレフが主宰したバレエ団で1909年から29年まで活動した。当時、ロシアのマリインスキー・バレエ団はロシア皇帝が所有しており、演目は皇帝の意向を配慮して制作されていた。皇帝の庇護のもとに帝室バレエ団(マリインスキー・バレエ団)のクラシック・バレエは、大いに発展し、プティパにより一つの頂点を極めた。同時に行き届いた教育システムにより、非常に優れたダンサーたちを輩出していた。
ディアギレフはこのロシア・バレエをニジンスキー、カルサヴィナなどの才能豊かなダンサーたちとともにパリに紹介し、センセーショナルな大成功を収めた。さらにディアギレフは、新作を企画・プロデュースし、ヨーロッパの主要都市で上演。これが、バレエ界のみならず20世紀のモードに大きな影響を与える芸術的事件となった。
ディアギレフは「バレエは総合芸術である」と主張。振付・音楽・美術のどれもが自立して舞台を構成しなければならないとして、芸術の新しい潮流を積極的にとり入れてバレエ・リュスの作品をプロデュースした。その結果ディアギレフのもとには、20世紀の才能豊かなアーティストが集まり、様々な分野に大きな影響を及ぼす革新的なバレエ芸術が花開いた。それがバレエ・リュスから近代バレエが始まったと言われる所以である。

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レオン・バクスト「牧神の午後」ニジンスキーのための衣裳デザイン

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マリー・ローランサン「牝鹿」衣裳デザイン

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ジョルジュ・バルビエ「ペトルーシュカ」

今回の「バレエ・リュスと美術家たち」展は、世界に知られた薄井憲二バレエ・コレクションから精選して、バレエ・リュスの舞台を作った美術家たちの仕事が展示、紹介される。
まずはレオン・バクストの代表作のひとつ『シェエラザード』の衣装デザイン。『シェエラザード』(リムスキー・コルサコフ音楽、ミハイル・フォーキン振付)は1910年にパリ・オペラ座で初演されて人気爆発し、バクストがデザインしたオリエンタル風の衣裳が当時のパリでは最新の流行となった。イダ・ルビンシュテインがスルタンの愛妾ゾベイダを、ニジンスキーが金の奴隷を踊り、バクストの鮮烈な色彩とフォーキンの全身を使った振付が、強烈なエロティシズムを放って一大ブームを巻き起こした。
ちなみに私は、バクストの装置を再現したスベトラーナ・ザハロワがゾベイダ、ファルフ・ルジマトフが金の奴隷を踊った『シェエラザード』の舞台をマリインスキー劇場で観た。幕が開くと極彩色で彩られたスルタンのハーレムが現れ、美しいオダリスク、骨が抜けたような宦官、ハーレムパンツを纏った奴隷たちが、主人の留守に繰り広げる酒池肉林の狂宴はまさに圧巻だった。後日、『シェエラザード』の装置を簡略化したヴァージョンも観たのだが、それは全く別の作品としか思えなかった。原典あるいはそれを彷彿させるものに接することは、なにものにも変えがたい貴重な経験なのだ、とその時に切実に思い知らされた。
今回はバクストによる『牧神の午後』のニジンスキーのための衣裳デザインが掲載された、バレエ・リュスの公式プログラムも展示される。
その他には、ロベルト・モンテネグロがニジンスキーの『ペトルーシュカ』を黒・白・金で描いた稀覯本(1913年)、ピカソが表紙を描いたバレエ・リュスの公式プログラム(1917年)と『パラード』の衣装デザイン(1920年)、マリー・ローランサンの『牝鹿』の衣裳デザイン・舞台美術の限定書籍(1924年)、ジョルジュ・バルビエが描いたニジンスキーの『ペトルーシュカ』(1913年)、バクストによる『眠れる森の美女』の「青い鳥」の衣裳(1920年代)などが展示される。全体では約150点の作品・資料など、世界中から集められたバレエ・リュスの舞台美術関連の貴重なコレクションを見ることができる。

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レオン・バクスト「シェエラザード」衣裳デザイン

◎兵庫県立芸術文化センター所蔵 薄井憲二バレエ・コレクション特別展
「バレエ・リュスと美術家たち」
https://www.archaic.or.jp/event/gallery/detail.php?id=408

図版提供・兵庫県立芸術文化センター 薄井憲二バレエ・コレクション

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