フェニーチェ界のバレエ×オペラ×オーケストラによる舞台──野間バレエ団が中村祥子をゲストに迎えて

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

Teatro Trinitario 2020 堺シティオペラ、野間バレエ団、大阪交響楽団

『ボレロ・フェニーチェ』『カルメン』野間景:振付、『Sonata』ウヴェ・ショルツ:振付

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『ボレロ・フェニーチェ』フェニーチェ(不死鳥):中村祥子、「火」:今村泰典
撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

バレエ団、オペラ団体、オーケストラが3つとも揃っている市町村は日本ではまだ少ないのではないかと思うが、大阪府堺市にはそれが揃っている。バレエはご存じの通り、野間バレエ団、そして堺シティオペラ、大阪交響楽団が本拠を置いているのだ。今回、その3団体が結束して、旧・堺市民会館が建て替えられて昨秋にオープンしたフェニーチェ堺で公演を行った。バレエについてを中心に書かせていただきたいと思う。

まず、前半は、それぞれの団体の演目、もちろん、オペラもバレエも大阪交響楽団の演奏とともに。
野間景振付の『ボレロ・フェニーチェ』は、この劇場の建て替えにともなっての野間景の想いを形にしたもの。劇場自体の名称が"フェニーチェ堺"なわけだが、フェニーチェ=不死鳥と、火、水、風、地と4つのエレメントによる作品。昔からの思い出深い堺市民会館が更地になった時に野間が感じた淋しさ、"無"、それが、地の力はじめ、火、水、風というエレメントによって永遠の存在である"フェニーチェ=不死鳥"に、という思いをラヴェルの『ボレロ』に乗せて描いた。今回、"フェニーチェ=不死鳥"を踊ったのは、ゲストの中村祥子。彼女の存在感、そして"強さ"が、とても作品に合っているように感じた。以前、別の公演でフェニーチェ役を踊った宇多田采佳は"水"役をソロで、長身を活かしての伸びやかな踊り。加えて群舞ともに全体として気持ちのまとまりが感じられたのも良い。

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『ボレロ・フェニーチェ』
撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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『ボレロ・フェニーチェ』フェニーチェ(不死鳥):中村祥子
撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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『Sonata』中村祥子、ヴィスラフ・デュデック
撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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『Sonata』中村祥子、ヴィスラフ・デュデック(チェロ:大谷雄一、ピアノ:田中葵)
撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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『Sonata』中村祥子、ヴィスラフ・デュデック
撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

中村は他に、夫で同じくベルリン国立バレエの元プリンシパルであるヴィスラフ・デュデックとともにウヴェ・ショルツ振付『Sonata』を踊った。とてもピュアで優しい、恋人同士の歓びが天にまで広がるような、輝くような雰囲気にも清潔感があり良かった。ただ、舞台上でのチェロ(大谷雄一)とピアノ(田中葵)の生演奏での上演だったのだが、大ホールでチェロの音が聴こえにくいということからか、チェロにPAが入っており、それがちょっと唐突な聴こえ方で違和感のある音になってしまっていたのが惜しい。こういったことは、とても難しい問題だと思う。

後半は、3団体が力を合わせての『カルメン』。これは、カルメン役のオペラ歌手、福原寿美枝の蓮っ葉な雰囲気が、とにかく格好良く、その凄みに惹き込まれた。媚びない魅力、とても良いと思う。バレエのカルメンとドン・ホセは荒瀬結記子&今村泰典。荒瀬はカルメンの内側に秘められたピュアなものを体現したよう、美しい足の甲、なめらかな踊りに惹き込まれた。
コロナ禍の中、オーケストラと共にのバレエの舞台が関西ではほとんどなくなってしまっているが、やはり、生演奏の良さをあらためて実感。少しずつでも、戻って行くことを期待したい。
(2020年9月22日 フェニーチェ堺 大ホール)

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『カルメン』アラゴネーズ:花井美夢、中西智美、下川三和子、松原愛梨、佐野紀子、浅井莉香
撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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『カルメン』カルメン(バレエ):荒瀬結記子、ドン・ホセ:今村泰典
撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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