新型コロナに打ち勝つ力強さを感じさせた貞松融振付『ボレロ』、森優貴振付の新作『Cinder(Ella) Destiny』、若手のパ・ド・ドゥなど──貞松・浜田バレエ団「ラ・プリマヴェラ」

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

貞松・浜田バレエ団

貞松正一郎:振付「オープニング」、森優貴:振付『Cinder(Ella) Destiny』、貞松融:振付『ボレロ』他

若手活躍の場として、2年に1度行われている貞松・浜田バレエ団のコンサート形式の公演『ラ・プリマヴェラ』。2年前までは"プリマヴェラ(イタリア語で「春」)"の名の通り春に行われていたが、今年から夏に時期を変えての開催だ(コロナウィルス感染拡大前から、今回は夏で企画されていた)。
新型コロナウィルス感染拡大によって、各バレエ団の公演が中止や延期に追い込まれるようになって以降、関西でのプロのバレエ公演としては、初めて開催された舞台。
チケットの半券に観客の連絡先を必ず書いてもらい(チケットもぎりも、観客にちぎってもらって箱で受け取る形)もしもの時に備えたり、マスク着用のお願い、係員はフェイスシールド着用、劇場入り口に赤外線サーモグラフィーを設置、所々に消毒液を置き、席は前後左右空けて......など、様々な対策をとった上での公演となった。

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『オープニング』 撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

幕開けは貞松正一郎振付の"オープニング"。グラズノフ作曲『四季〜夏』から始まる明るく華やかな作品を、女性8名、男性2名の若手ダンサーたちが、コロナの鬱陶しい空気を吹き飛ばすような爽やかさで踊った。華やかなのだけれど、宝石のきらびやかさというよりは花々が咲き乱れるような......こういった気取らない陽性の魅力の群舞は、このバレエ団が最も得意とするところのように思う。
続いて、若手のパ・ド・ドゥ。松尾珠里と岩崎達の『騎兵隊の休息』は素朴な魅力、あまり日本で観る機会のない『ラ・ペリ』は清田奈保と水城卓哉、特に後半の軽快な踊りが良かった。『海賊』のお馴染みのメドーラとアリのグラン・パ・ド・ドゥは宮本萌と幸村恢麟。宮本の伸びやかな身体の使い方、幸村のメリハリの聞いた高テクニックを楽しんだ。

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『ラ・ペリ』清田奈保、水城卓哉
撮影:田中 聡(テス大阪)

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『海賊』宮本萌、幸村恢麟
撮影:田中 聡(テス大阪)

ヴェテランも見応えのある演目を一つ。プライベートでも夫婦である竹中優花と武藤天華が、森優貴振付の新作『Cinder(Ella) Destiny』を踊った。プロコフィエフ作曲の『シンデレラ』の音楽に振付けられた小作品。童話『シンデレラ』の物語を思わせる流れなのだが「いつか王子様が......」といった夢物語的なものではなく、前向きに自らの意思にしたがって道を切り開いていくシンデレラと、何かを求めながら苦しみ、悩む王子。そんな2人が出会い、気持ちを通わせ、手を繋いでゆっくりと歩みだす。男女どちらかが寄りかかるのではなく対等、まるで、竹中と武藤自身を描いているかのようにも思えて心にしみる。とても素敵な作品だった。また、これまで森の作品というと"死"を感じさせるものを多く観てきたような気がする。こんなにロマンティックな作品も創る人なんだということも興味深かった。

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『Cinder(Ella) Destiny』竹中優花、武藤天華 撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

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『サタネラ』奥山祐香子、水城卓哉
撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

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『ドン・キホーテ』名村空、小森慶介
撮影:田中 聡(テス大阪)

後半の若手のパ・ド・ドゥは、まず、尾﨑理沙と大門智のお行儀よく可愛い『コッペリア』。奥山祐香子と水城卓哉が踊った『サタネラ』は、二人共の笑顔がとてもチャーミング。そして、『ドン・キホーテ』は名村空と小森慶介。名村の踊りはピシッと決めるところと余韻のあるところの使い分けがとても知性的、小森は高テクニックを笑顔いっぱいで、ノビノビと心から楽しんで踊っているのが伝わった。
ラストは貞松融振付『ボレロ』。当初予定していたバランシン振付『セレナーデ』の指導者がコロナで来日できず、変更しての上演だ。この『ボレロ』は1981年初演、学校公演でも度々上演され、阪神・淡路大震災後にも上演されて人々に力を与えた作品。ラヴェル作曲『ボレロ』に乗せて、中心パートを踊るダンサーが、武藤天華に始まり、正木志保、竹中優花、佐々木優希、廣岡奈美、山口益加など変化しながら、音と共に盛り上がっていく。しっかりと大地を踏みしめ、田畑を耕すような動きも入れながら素朴さを持って。ベテランも若手も心が一つになっているのを強く感じた。全員の力を合わせた、とても誠実で力強い『ボレロ』、そのパワーが客席の私たちに伝わり、ともにコロナに立ち向かえそうだ。
(2020年7月26日 神戸文化ホール・中ホール)

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『ボレロ』廣岡奈美
撮影:田中 聡(テス大阪)

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『ボレロ』(中央は)武藤天華
撮影:田中 聡(テス大阪)

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『ボレロ』撮影:田中 聡(テス大阪)

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