無観客で行われた貞松・浜田バレエ団『創作リサイタル31』──アレクサンダー・エクマン振付『CACTI』日本初演 他

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

貞松・浜田バレエ団

『The Bach Variations』大石裕香:振付、『media』湯浅永麻:振付、『I'm for ...M.』森優貴:振付、『CACTI』アレクサンダー・エクマン:振付

新型コロナウィルス感染が広がる中、"無観客"として上演された公演。関係者のみが楽屋口から入場し、サーモグラフィーによる体温測定、スタッフも鑑賞する関係者もマスク着用、所々にアルコールを置いて、という形で行われた。楽しみにされていた方々には心苦しいことながら、私は関係者として観せていただくことが出来た。
ところで、実は、この公演へのコロナの影響は、"無観客"になったということだけではない。当初、3演目で行われる予定だったのだが、そのうちの1つ、新作を振付予定だった元バットシェバ舞踊団のAdi Salantが来日出来ないことが本番2週間ほど前に分かった。バレエ団は、急遽、別演目を模索。この団体出身で、ドイツ、レーゲンスブルグ歌劇場バレエ団芸術監督として活躍し、現在は、日本に戻っている森優貴に新作の振付を依頼。加えて、総監督としてこの「創作リサイタル」の企画を主に担っている堤悠輔がオランダでダンサーとして活躍していた頃から尊敬していたという元NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)の湯浅永麻が、たまたまこの時期に日本にいることを知り、彼女の自作自演作品の上演を依頼した。そうして、当初から予定されていた2演目と合わせて、4演目での舞台となったのだ。
演目変更を経て、入り口にサーモグラフィーを置いて体温チェックをするなどの対策をした上で観客を迎える準備をしていたが、2日前に仕込みのためにホール入りした朝、ホール側からの要請で"無観客上演"となった。神戸文化ホールは主催公演は中止していたものの、ホール自体をクローズすることはなく、この公演に関しては開催に協力的だったという。ただ、ホールへの「市立のホールでこんな時期に開催するのか」という電話が日に日に増え、それはあらがえないものになっていった。
観客を入れずにという悲しい形ではあったが、舞台で行われたダンスは、紆余曲折を経たからこそ余計に、と思える素晴らしいものに仕上がった。まず、公演全体を通して観て、あらためて、レベルの高い良いダンサーだと感じたのが水城卓哉。彼はクラシック・バレエ全幕でも魅力的なダンス・ノーブルだが、今回のようなコンテンポラリー・ダンスでも、それぞれの振付家の意図を自然に的確に捉えて、自分の踊りを見せることができる人なのだということを実感した。彼は、最初の演目、大石裕香振付『The Bach Variations』(新作)と最後の演目、アレクサンダー・エクマンの『CACTI』(日本初演)で、どちらも主要パートを踊った。

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『The Bach Variations』大門智、井上ひなた、後藤俊星
撮影:古都栄二(テス大阪)

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『The Bach Variations』
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

4作品、それぞれについて触れて行きたいと思う。
まず幕開け、大阪出身で、ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエでダンサー、振付として活躍した大石裕香が、この舞台のために振付けた『The Bach Variations』。そのタイトルの通りJ.S.バッハの曲に乗せての群舞(少人数のパートも織り込まれての)だ。このバレエ団の特徴──クラシックの技術が身体に入っていて、しっとりとした表現や影のある表現もももちろんするのだけれど、全員で希望に溢れたポジティブな空気感を醸し出すのが得意──私がいつも感じているそんな特徴を、大石はこのバレエ団への振付は初ながら、上手く活かして創っていたのはさすがだ。先ほど書いた水城を始め、軽快な動きで目を引いた幸村恢麟、ベテランらしく深みある踊りの佐々木優希、高身長を活かした伸びやかなで動きで周りを明るくする井上ひなたなど、良いダンサーが続々と出て来ているのも嬉しい。

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『media』湯浅永麻
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

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『I'm for...M.』角洋子、上山榛名、宮本萌
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

次に上演されたのは、湯浅永麻振付・出演のソロ『media』。湯浅はNDTで活躍後、スウェーデン王立バレエ団にマッツ・エック版『ロミオとジュリエット』のジュリエット役で客演するなど世界で活躍するダンサー。身体にピッタリとした黒のボディスーツに身を包み、時に後ろの暗幕に絡め取られ呑み込まれるような姿が衝撃的で眼に残る。"身体"が"媒体"="media"で、"自分"はその入れもののなかに入っていて身体の外との交流によって変動、変容する......ある意味、とてもダンサーらしい考え方を体現した作品に思えた。そしてもちろん、動きの力で観客の目を釘付けにする。
森優貴振付『I'm for...M.』は実力派の女性ダンサー3人、角洋子、上山榛名、宮本萌が踊った。これをほぼ一週間で仕上げたというのは、知り尽くした団体だからこそ、だろうか。無数の傘が上から吊るされたなか、想いに沿わないこと、辛いことなどがさまざまにあっても、強さを持って進むような......緩急を持った迫力ある踊りだった。

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『CACTI』小林奈央、水城卓哉
撮影:古都栄二(テス大阪)

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『CACTI』小林奈央、水城卓哉、他
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

そしてラストは、アレクサンダー・エクマン振付(美術、衣装デザインも)『CACTI』。このバレエ団の団結力を最大限発揮したように思えるアンサンブルを神戸フィルハーモニックのカルテットとともに。オールヌードのようにも見える肌色の衣装でサボテンを持つダンサーたちは、どこかコミカルでシュール。独特の"ヘン"な空気感に惹き込まれた。ここでも中心的な役割を果たしたのが水城卓哉、そしてそのパートナーを"素"な雰囲気がとても自然な小林奈央。正確で息の合ったアンサンブルを見せるレベルの高いダンサーの集まりであると同時に、お笑い文化に親しむ関西の団体だからこそ、絶妙な空気感を持って仕上げられた作品と言えるかもしれない。
(2020年3月14日 神戸文化ホール・中ホール 無観客上演)

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『CACTI』撮影:古都栄二(テス大阪)

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