サンフランシスコ・バレエの初期のヴァージョンを基にした『くるみ割り人形』、川口節子バレエ団

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

川口節子バレエ団

川口節子:振付、タマラ・ベネット、クリストファー・ストウェル:特別振付

全日本バレエ・コンクールで、2018年に野黒美茉夢がジュニアAの部女子第1位、2019年に高橋莉子がシニア部門女性第1位と、2年連続で第1位を出した川口節子バレエ団。今回の『くるみ割り人形』は、その2人が主要な役を踊っての全幕となった。野黒美は現在、パースのウエストオーストラリア・バレエ団で活躍しており、里帰りして金平糖の精(グラン・パ・ド・ドゥ)を、高橋は雪の女王と花のワルツの中心・バラの精を踊った。

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金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥ:野黒美茉夢、長谷川元志 撮影:杉原一馬

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バラの精:高橋莉子 撮影:杉原一馬

このバレエ団の『くるみ割り人形』は、アメリカでもっとも歴史あるバレエ団、サンフランシスコ・バレエの初期の『くるみ割り人形』の指導を受けた上で創られている。1998年に当時、サンフランシスコ・シティバレエスクールの芸術監督だったダマラ・ベネットと同バレエスクール振付家ヘンリー・バーグを指導と振付に招き、ともに創り上げたのだ。2002年には元サンフランシスコ・バレエ・プリンシパルダンサー、クリストファー・ストウェルに雪の情景の再振付を依頼し、川口節子が手を入れながら隔年で上演、今回が11回目となる。

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クララ:堀江優花、くるみ割りの王子:野黒美拓夢
撮影:水野まゆみ

今回、クララを踊ったのは堀江優花、顔が小さく手脚が長いスタイルの良い女の子で、自らの年齢に自然に子供らしいクララを表現していた。フリッツは弟ということがひと目で分かる、クララよりだいぶ小さな男の子、光田奎太が踊った。端正な魅力のドロッセルマイヤーは後藤晴雄、そしてその手品を手伝う甥=くるみ割り人形=くるみ割り王子は野黒美拓夢(ちなみに茉夢と双子)。ネズミとの戦いが終わり、王子になって、クララにトゥ・シューズを渡す姿は女の子の夢の存在そのもののようで、フレッシュで優しげにクララのほのかな初恋の相手を好演した。高橋の雪の女王は穏やかな表情に余裕も感じさせて、とても良い存在感がある。コール・ド・バレエとともにスピーディーに盛り上げた。

2幕、登場したお菓子の国の王様は、なんと、出演者で一番小さいかと思える男の子・前川勝誠。とても可愛らしくて微笑ましい演出。それぞれオリジナリティを持ったディヴェルティスマンが進み、花のワルツは4色のラメボディにチュールスカートのコール・ド・バレエ。ともに、ブルーの入った薄いピンクのチュチュ姿のバラの精(高橋)が踊る。華があり、若さ弾むような軽さも感じさせた。金平糖の精と王子(長谷川元志)のグラン・パ・ド・ドゥは、2人とも基礎を真摯に意識していることが感じられる気持ちの良い踊り。美しい首のラインで優雅さも見せた野黒美茉夢、空中で脚を広げた形が残像として残るジャンプが印象的だった長谷川、ともに品も感じられて良かった。
(2019年12月21日 愛知県芸術劇場大ホール)

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雪の女王:高橋莉子、雪の王子:浅井敬行 撮影:杉原一馬

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中国の踊り(お茶)ソリスト:若林桃子 撮影:杉原一馬

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人形(ハーレキン):南野高廣、人形(コロンビーヌ):小澤祐貴子
撮影:杉原一馬

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バラの精:高橋莉子 撮影:杉原一馬

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金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥ:野黒美茉夢、長谷川元志、バラの精:高橋莉子
撮影:杉原一馬

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