森下洋子の繊細なクララに心温まる『くるみ割り人形』、松山バレエ団が11年ぶりに大阪公演

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

松山バレエ団

『くるみ割り人形』清水哲太郎:振付

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クララ:森下洋子  撮影:テス大阪(すべて)

長年、関西公演を行っていなかった松山バレエ団。3年前に稲盛財団主催で観客を抽選で全員招待という形での京都公演があったが、大阪公演は11年ぶりになるという。
演目は『くるみ割り人形』。プログラムに書かれたプロダクション・ノートやストーリーを読むと、世界、社会を見渡しての問題意識や思いを込めて清水哲太郎が振付を手掛けたことが感じられる。とはいえ、もちろん、クラシック・バレエ作品『くるみ割り人形』の魅力は大切にされていて、全幕の基本的な流れはオーソドックス。

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ドロッセルマイヤー判事:鄭一鳴

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クララ:森下洋子、ドロッセルマイヤー判事:鄭一鳴

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クララ:森下洋子、神性青年アマデウス(王子):刑部星矢

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クララ:森下洋子

クララを踊ったのは森下洋子。こんなに長い年月、主役を踊り続けているプリマは世界中を見渡しても彼女だけかもしれない。オリジナル振付は彼女の魅力を引き出し、本当に"少女"そのもの。普通のバレリーナなら、彼女ほどの年齢までいかなくても歳を経ると、衰えが見えてしまうものだが、彼女の踊りにはそういったものは見えない。もちろん、大きなジャンプや複雑な回転技を見せることはない、脚も高くは上げない。だが、その高く上げない脚が上品なラインとなり、小さなパ・ド・ブレが繊細な表現になり、クララの気持ちが温かく観客に伝わる。こんなに魅力的な踊りを観せ続けるのは並大抵のことではない──恵まれた才能に加えての強い精神力に基づいた日々の鍛錬のたまものだろう。パートナー、神性青年アマデウス(王子)を踊ったのは刑部星矢。長身で良いスタイル、頼もしく丁寧な踊りに好感が持てた。

雪の場面の中心、神雪の女王カタリナの佐藤明美、花のワルツのプリンシパル、山川晶子と大谷真郷はじめ、ソリストたちも充実。
観慣れた『くるみ割り人形』とは一味違う、このバレエ団独自の魅力の詰まった舞台だった。
(2019年11月23日 フェスティバルホール)

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マダムギゴーニュ:田渕朱里

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花のワルツ(プリンシパル):山川晶子、大谷真郷

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神雪の女王カタリナ:佐藤明美  撮影:テス大阪(すべて)

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