『眠れる森の美女』『シンデレラ』のワルツから「美しき青きドナウ」まで、中村の振付の小気味良さが随所に光った新春の京都の舞台

ワールドレポート/京都

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

New Year Gala ロームシアター京都

「京響クロスオーバー バレエ×オーケストラ」中村恩恵:演出・振付、下野竜也:指揮、京都市交響楽団

ロームシアター京都では2019年の新春6日、下野竜也指揮、京都市交響楽団の演奏と中村恩恵の演出・振付による「京響クロスオーバー バレエ×オーケストラ」をNew Year Galaとして上演した。全12曲が第1幕と第2幕にわけられて演奏され、そのうちの11曲でバレエが踊られた。

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「悲しきワルツ」福岡雄大

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「シンデレラ」イ・ドンタク、カン・ミソン

冒頭、チャイコフスキーのバレエ組曲『眠れる森の美女』よりワルツでは、山井絵里奈と全京都踊舞協議会のメンバーが新春の開幕にふさわしく華やかに踊った。続いてシベリウスの『悲しきワルツ』は、新国立劇場バレエ団プリンシパルの福岡雄大のソロ。上下黒の衣装で静謐な動きに悲しみの情感をうきあがらせた。プロコフィエフの『シンデレラ』は、以前に中村が大阪の野間バレエ団に全幕を振付けているヴァージョン。第2幕の王子とシンデレラのアダージオを、韓国ユニバーサル・バレエのイ・ドンタクとカン・ミソンが踊った。振付には細やかな味わいが込められていて、活き活きとした二人の喜びが舞台に躍動する。久しぶりにみせてもらったが、やはり良かった。シベリウスの交響詩『4つの伝説』より、トゥオネラの白鳥は首藤康之と中村が踊った。中村は頭に純白のスカーフをターバンのように巻いて、白い衣装で、長い手袋を着け、花嫁と白鳥のイメージを重ねるかのように振付けられていた。あたかも交響詩を歌っているかのように、鮮烈なヴィジュアルを表して首藤と踊った。こうした中村の表現は実に美しいものを作る。続いて福岡雄大と渡辺理恵が踊るチャイコフスキーの『眠れる森の美女』第3幕より、グラン・パ・ド・ドゥ。渡辺は久しぶりに見せてもらったが、落ち着いて堂々と丁寧に彼女の持つ良い雰囲気を醸して踊った。第1幕の終わりは、やはり中村の『シンデレラ』第1幕より、ワルツ。プロコフィエフの傑作と言われる素晴らしいワルツが奏でられ、背景の闇からダンサーがゆっくりと登場。ステップは使わず、両手の大きな動きでメロディを捉え、ワルツを豊かに表現した。

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「トゥオネラの白鳥」中村恩恵、首藤康之

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「眠れる森の美女」渡辺理恵、福岡雄大

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「アダージェット」中村恩恵、首藤康之

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「アダージェット」中村恩恵、首藤康之

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「アダージェット」中村恩恵、首藤康之

第2幕はまず、下野竜也の指揮により、ベルリオーズの「幻想交響曲」より第2楽章が演奏された。そしてマーラーの交響曲第5番より「アダージェット」は、周知のようにヴィスコンティの傑作映画『ヴェニスに死す』のテーマ曲として使われた音楽。首藤が背景から息絶えた白い衣装の中村を抱え苦悶の表情で登場。離別の苦悶を訴える。そして横たわったままの中村を抱上げ、渾身の心を込めて魂を呼び起こす。やがて、中村の魂が目覚めたのか、生気を取り戻したかのように二人は踊る。しかしやがて中村の身体は横たわってしまった。再び、首藤は苦悶を全身で表しながら舞台奥の闇に消えていく・・・。この見事にシンプルかつ無駄なくに振付られた踊りは完璧だった。魂の領域の交流を舞踊により余すところなく表現した。同じ音楽によるベジャールの傑作にも優るとも劣らない感銘を受けた。『タイスの瞑想曲』は渡辺と福岡によるパ・ド・ドゥ。渡辺は淡いブルーのドレスにポワントを着け、一弦の美しい響きに身を任すがのように踊り、逞しく安定感のある福岡は、黒い衣装で男性的なラインを描いた。二人の動きと音楽がまさに一体となってこの上なく美しい舞台が新年の京都に出現した。そして渡辺は、そのままソロでフォーレの『パヴァーヌ』を踊ったのである。

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「タイスの瞑想曲」渡辺理恵、福岡雄大

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「タイスの瞑想曲」渡辺理恵、福岡雄大

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「タイスの瞑想曲」渡辺理恵

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「パヴァーヌ」渡辺理恵

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「くるみ割り人形」イ・ドンタク、カン・ミソン

第二幕のとりはドンタクとミソンの『くるみ割り人形』のグラン・パ・ド・ドゥだった。赤い衣装の王子とピンクに彩られたの金平糖の精が最後の舞台を飾った。
フィナーレは出演ダンサー全員がJ.シュトラウスのワルツ『美しく青きドナウ』を踊った。ダンサーの登場シーンは、第1幕と同じだったが、ここでは、キビキビとしたステップと様々に豊かな表情を見せるフォーメーションを駆使して、いっそう華やかにおおいに盛り上がって、新春の「バレエ×オーケストラ」は、ワルツという音楽の素晴らしさを讃えて幕を下ろした。
(2019年1月6日 ロームシアター京都メインホール)

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「美しく青きドナウ」

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