京都の伝統美とクラシック・バレエが共鳴した美しい舞台、京都バレエ団の『京の四季』と『屏風』

ワールドレポート/京都

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

京都バレエ団

『京の四季』『屏風』有馬龍子、安達哲治:原構成・演出・振付、有馬えり子:新構成・演出・振付・指導

京都バレエ団による『京の四季』『屏風』公演が、ロームシアター京都のメインホールで行われた。『京の四季』は「春」は宮城道雄作曲の「春の海」、「夏」は大谷祥子作曲の「源氏物語より蛍」、「秋」も大谷祥子作曲の新曲「祇王の涙」、「冬」は沢井忠雄作曲の「百花譜より冬」という、大谷祥子による繚乱たる箏と横笛の調べにのせて踊られる(箏/大谷祥子、立道明美、菊重絃生、横笛/藤舎貴生)。背景では元池坊の華道家、小池美由希と青木優里が、季節の花をライヴで活け続けている。そしてダンサーたちは、カラフルなチュチュと着物をアレンジした衣装でフォーメーションを作り、絶妙の配色を煌めかせながらたおやかなラインを描く。これは京都に息づく伝統美とバレエの、奇跡ともいうべきコラボレーションである。日本の美の精髄を知る京都人でなければ、これはつくれない、と思わせた美しさが舞台に輝いた。四季のうつろいこそが、人間が情感とともに生きていく必須の情景である。そのことを観客に体験させてくれた舞台だった。

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「春」撮影/瀬戸秀美(すべて)

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「春」

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「夏」

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「夏」

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「秋」

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「秋」

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「冬」

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「冬」

『屏風』は1974年に初演され、フランスやイギリスなどでも公演を重ね好評を博したバレエ。フランス公演の予想を超えた大きな反響に戸惑った様子は、バレエ団の創設者で原振付者の有馬龍子と主人公の太一を踊った安達哲治の公演プログラムに掲載された文章がよく表している。
今回『屏風』は、能に触発されたイメージを融合させたバレエとして有馬えり子が再構成を行った。
スタッフの詳細を記すと、原構成・演出・振付、有馬龍子・安達哲治、再振付・指導、有馬えり子。音楽はビアノ曲エリック・サティ、美術・皆川千恵子、小鼓・藤舍呂悦、横笛・藤舍貴生、謡・金剛永謹、詞章・冷泉貴実子。ピアノ演奏は森田圭子、矢田裕子となる。詞章つまりシナリオは冷泉家24代為任の長女、冷泉貴実子が作った。まさに京都の伝統の最深部が関与した舞台である。

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「屏風」撮影/瀬戸秀美(すべて)

物語は、京子(吉岡ちとせ)と太一(山本隆之)という結婚を間近に控えたカップルと、摩訶不思議な屏風が織りなしている。
浮き浮きと祭りを楽しんでいた京子と太一は、男(佐々木大)と女(藤川雅子)の屏風売りと出合う。すると太一は、憑物に憑かれたようにその屏風に魅了される。ただならぬ様子に京子は不吉な予感を抱き、太一を必死で諭すが聞く耳持たぬ有り様。祭りはたけなわとなり、面白おかしい芝居などが次々と上演される。まるで『ペトルーシュカ』のような賑わいの中、突如、幕の中から例の屏風が現れる。太一はもうだめだった。いくら京子がすがりついてもはね除けられて、ついには結婚資金のために貯めていたお金をすべて支払って、屏風を買い込んでしまった。
そして屏風を家に持ち込んで、ただ眺めている。そのうち微睡んでしまった。すると、屏風の中から薄絹を纏った美しい女(光永百花)が現れる。女は驚く太一を尻目に妖艶に踊る。太一はたちまた魅入らせられてしまう・・・。翌日、京子が太一を訪ねると、すで太一は息をしていなかった・・・。
屏風は別世界との境い目で、その裏には恐ろしいぬばたまの闇が広がるあやかしの世界がある。屏風の裏側からやって来た女は、「祭りの声に誘われて現れたのは、恨みの中に息絶えた女の死霊」(冷泉貴実子)だった。ともに甘美の時を過ごしていたのに、心がわりから、いつの間にか消えてしまった恋人。悲歎にくれた女は去ってしまった恋人への尽きることのない怨みを抱いたまま、黄泉の国に旅立った。そして姿を変えて、祭り囃子に浮かれる幸せなカップルに襲いかかったのである。

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屏風売りの二人に儀式的な振りを与えて、黄泉の国の影を映している。太一は自分自身にも理解できない引き寄せられる得体の知れない心を踊る。山本は理解不能のまま取り憑かれた人物像を、うまく表現している。近年は、積極的にコンテンポラリー・ダンスを踊ったり、『くるみ割り人形』を振付を行ったりした経験が実ったのだろう。充実した表現力をみせた。そして屏風の女を踊った光永百花(京都バレエ専門学校卒業後、牧阿佐美バレヱ団)の身体を生かした踊りが見事だった。薄絹と身体が妖しく魅力的な雰囲気を鮮やかに醸し出した。京子の吉岡、屏風売りの佐々木と藤川も安定した表現を見せ舞台を大いに盛り上げた。
能の世界をバレエに融合させることを意図した作品であるが、私にはローラン・プティの『若者と死』あるいは『ランデヴー』に通底する世界観が現れていたと思われた。
(2018年11月3日 ロームシアター京都 メインホール)

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光永百花、山本隆之

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光永百花、山本隆之

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