越智インターナショナルバレエ『白鳥の湖』公演

ワールドレポート/大阪・名古屋

唐津 絵理
text by Eri Karatsu

『白鳥の湖』

『白鳥の湖』

 越智インターナショナルバレエの秋の公演は、新プロデュースによる『白鳥の湖』だ。同バレエ団がはじめてこの作品に取り組んだのは、半世紀以上も前のことだというから、再演にあたっての思いも深いというもの。そして今またこの名作に取り組むにあたって、越智實の念願だったプロローグの場面など、いくつかの場面で改訂された新プロデュース版での上演となった。
 舞台は、花を摘みに湖のほとりに足を踏み込んだ王女オデットの背後から、悪魔が襲いかかるプロローグの場面から始まる。中央に置かれた高台の後ろから忍び寄る悪魔とオデットの姿が印象的な幕開けだ。

 11日、12日の2日公演で、両日ともオデットとオディールはバレエ団のプリマ越智久美子が、王子は同バレエ団のおなじみの顔ワディム・ソロマハが演じた。今回の舞台全体を通して感じられたのは、しっとりとした大人の情感である。2人の呼吸がこれ以上もないほどにぴったりと合っていたことに加えて、円熟したダンサーでなければ演じることの出来ない表現の幅というものを感じさせてくれる舞台であったからだ。
それはとりわけ、白鳥と黒鳥の演じわけに象徴されているだろう。湖の静寂、大人のムードを漂わせながらしっとりと踊る第2幕の白鳥に対して、強烈なインパクトを与える第3幕の黒鳥。色とりどりの衣裳の中に佇むオディールの越智久美子は、パステル画を背景に黒のインクで大胆な軌跡を描くように跳躍し、空間を切り裂く。

 プリマバレリーナの引退時期は、もちろん人それぞれであるが、越智久美子の今回の舞台をみて、経験や年齢を重ねたからこそ滲み出てくる表現力の豊かさというものを感じざるを得なかった。彼女のさらに高みへとのぼっていこうとする精神力には圧倒され、そしてその精神力に拮抗するだけのテクニックを兼ね備えたダンサーであることを強く感じたオデットとオディールであった。

そして、彼らを支えていたのは、越智インターナショナルバレエの若手のダンサーたちである。特にパ・ド・カトルの森絵里、木下友美、ナポリターナの森弥生が印象的だ。道化役のディミトリー・コーラスは、跳躍の度に、弓のようにしなる柔軟な身体で空間に弧を描き、エネルギッシュな舞台をつくるのに貢献していた。
越智久美子とワディム・ソロマハの息のあった演技と、越智實による新しい演出で、バレエ団の新しい魅力をみせてくれた新プロデュースによる『白鳥の湖』であった。演奏は、アレクセイ・バクラン指揮によるNPO法人小牧市交響楽団。
(11月12日、愛知県芸術劇場大ホール)

「白鳥の湖」越智久美子 ワディム・ソロマハ

越智久美子 ワディム・ソロマハ

「白鳥の湖」 越智久美子 ワディム・ソロマハ

越智久美子 ワディム・ソロマハ

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