単独バレエ団としては日本初演 法村友井バレエ団『アンナ・カレーニナ』

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ
text by Atsuko Suzuna

『アンナ・カレーニナ』

『アンナ・カレーニナ』

 トルストイの大長編『アンナ・カレーニナ』。この大人の恋---不倫物語を、日本人が上演して陳腐にならないものだろうか?正直なところ、そんな心配を抱きつつ劇場に向かった。
---というのも、このアンドレ・プロコフスキー振付の『アンナ・カレーニナ』、日本ではこれまで日本バレエ協会の公演で2度上演されているが、どちらも主演は外国人。国籍は関係のない昨今とはいえ、日本人ダンサーは繊細な魅力があるものの、まだまだ大人の表現が苦手な人が多い気がしている。ちなみに、日本初演時は、アンナがガリーナ・クラピーヴィナ、その恋の相手ウロンスキーと田舎貴族レーヴィンをウラジミール・マラーホフとイルギス・ガリムーリンが交替で踊り、2回目1998年は、アンナをヴィヴィアナ・デュランテ、ウロンスキーをホセ・カレーニョが踊っている。今回の法村友井バレエ団のような単独バレエ団による上演は日本で初めてで、主役カップルが日本人というのも初めてのことだ。

 舞台を観終わって、そんな心配はまったく杞憂であったことを思い知らされた。アンナは高田万里、ウロンスキーは法村圭緒、そしてアンナの夫カレーニンは法村牧緒。この公演の芸術監督でもある法村牧緒は、過去2回のバレエ協会公演でもカレーニンを踊り、プロコフスキーの振付補佐の役割も担った経験を持つ人、彼自身この作品への思いは大きく、多大な役割を果たしたことが想像できる。

 プロコフスキーの演出は、とてもドラマティック。最初のプロローグで汽車が着くシーン・・・ここは、登場人物たちが汽車から降り立つ出会いのシーンなわけだが、客席に向かって怖いほどの迫力で正面から突進してくる大きな汽車に、観ている私たちはトルストイの有名な物語を思い出し、ラストのアンナの悲劇的な運命を頭に描く。もちろん、3幕のラストも、汽車が迫ってくる---アンナが悲しみの極致の中で汽車の下敷きになるシーンなのだから素晴らしいまとまり方。
 3幕構成の中は、長大な物語をわずか数時間にまとめるせいで、シーンの移り変わりがあまりにも早いな・・・と思うところもあるのだが、観客に飽きさせることもなく、さまざまなタイプの踊りをバランス良く組み合わせ進められていた。

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『アンナ・カレーニナ』

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『アンナ・カレーニナ』

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『アンナ・カレーニナ』

 そしてダンサーたち。大きな拍手を贈りたいのは、やはりアンナを踊った高田万里。ほんの最初こそ、少しカタいか?と思わせる部分があったものの、1幕の後半、大舞踏会でのウロンスキーとの踊りは、もう止めようのない情熱を感じさせ、2幕から3幕とどんどん役の中に入り込んで、アンナそのものを生きている---取り憑かれた雰囲気さえ、観客に見せてくれた。もちろん、ウロンスキーの法村圭緒は気品に溢れ凛々しく、やはり恋に身を焦がす姿ーーしかし時間が進むに連れて、心が離れていくさままで、細かい演技を見せてくれた。
 面白く感じたのは、確か実年齢は法村圭緒の方が高田万里よりもだいぶ上のはずだが、舞台を観ている限りは、人妻と青年の恋というのがそのまま感じられたこと。法村にはそんな爽やかな若さがあるし、高田には知的な大人の魅力がある。今回、高田はそれに加えて、妖艶さや強さ、ボロボロになっていく女性の姿までを見せてくれた。
 日本にも、海外のバレエ団に所属してというのでもなく日本に身を置きながら、ここまでの踊りを見せてくれるバレリーナが誕生したことが、今回何より嬉しかった。
(10月24日 フェスティバルホール)

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『アンナ・カレーニナ』

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『アンナ・カレーニナ』

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『アンナ・カレーニナ』

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