珍しいキノコ舞踊団『3mmくらいズレている部屋』

ワールドレポート/大阪・名古屋

唐津 絵理
text by Eri Karatsu

珍しいキノコ舞踊団 『3mmくらいズレている部屋』

珍しいキノコ舞踊団の新作が、ちょうど開館2年がたった金沢21世紀美術館で発表された。オーストラリアと日本の交流年として、双方の国のアーティストたちがレジデンスで作品を創作するプロジェクト「オーストラリア~日本 ダンスエクスチェンジ(AJdX)2006」の一環である。
ダンスを核として、共同制作のパートナーをオーストラリアのアーティストたちの中から探したというこのプロジェクト。珍しいキノコ舞踊団の振付家・伊藤千枝は、インテリアデザイナー(豪)のジャスティン・カレルを指名、メルボルンと金沢での1ヶ月半に亘る集中的なレジデンスを経て作品を創作した。
これまでも多くの家具デザイナーと共に作品を創作してきたキノコたち、インテリア・デザイナーと聞いて、予め「今度はどんな美術なんだろうと」、大いに妄想を膨らませてして金沢まで足を運んだが、想像以上の作品に仕上がっていた。

100名ほどのこじんまりした劇場のプロセニアムの舞台上は、女の子たちの日常を感じさせる可愛らしいお部屋。夢見る少女たちが大好きな、黄色や青などカラフルな原色の椅子やテーブルなどが置かれているが、どの家具もちょっと奇妙ないでたちだ。脚が外れていたり、傾いていたり、キリン型(実はラクダらしいが)の椅子は高すぎて届かない。電話の受話器は大きくて、逆さに置けばシーソーのよう。そう、まさに少しだけ「ズレている」家具、そして部屋なのだ。

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 ほんわかとした音楽が始まると、家具たちはその場に置かれたオブジェのままではなく、命を宿したかのように動きはじめる。もちろん本当に動くわけではない。しかしこれらの家具がまるで生きているように、ダンサーたちがオブジェを巧みに操りながらダンスは進んでいくのだ。家具と家具、家具とダンサー、ダンサーとダンサー、そこには様々な関係と物語が生まれていく。安定している物たちを、少しだけ「ずらす」ことではじまる物語は、私たちの普段の「もの」を見る目がいかに不自由なものであったかを気づかせくれるのだ。

夜中に起き出したおもちゃの兵隊のように、ものの中に精を宿すダンス。人間の身体のほんのちょっとの動きもダンスにしてしまって、日常にダンスを溢れ出させたキノコたち。今度はオブジェにまで命を吹き込み、空間すべてを踊らせてしまった。どこまで踊らせてしまうのか、とどまるところをしらないダンスで、観客たちの日常が満たされた。
メルボルン経由で金沢で誕生した作品は、劇場に合わせてまだまだ進化していくという。11月22日には、愛知芸術文化センターの小ホールでも開催されるから、見逃した人は是非この空間を体感しに行って欲しい。
(2006年9月24日 金沢21世紀美術館)

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