オリジナル全幕初演、地主薫バレエ団『アリババと40人の盗賊』
- ワールドレポート
- 大阪・名古屋
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ワールドレポート/大阪・名古屋
- すずな あつこ
- text by Atsuko Suzuna
新しい作品というと、1時間以内くらいの作品はよく創られるが、数時間の全幕はそんなに多くは創られない。また、創られたとしても良い作品は、その中でもほんの一部ではないだろうか。
今回の『アリババと 40人の盗賊』は、地主薫が演出・振付、芸術監督のすべてを担当し、ストーリーの構成から、音選び、振付を自ら行った作品。さまざまなシーンがバランスよく組み合わされ、全幕として観客を物語に引き込む良い作品に仕上がっていた。
お話はみんなが知っているアラビアンナイトのあのお話。ただここでは、アリババ(石崎慎)は独身で、恋人アマーラ(村田恵理)と愛し合っているものの、貧乏なためにアマーラの父親から結婚を許してもらえないという設定。そのアリババが3頭のロバとともに働いている中で、盗賊たちの宝の隠し場所を発見し、宝を得て結婚を許してもらうようになる。兄カシム(小走政継)が、欲を出して盗賊に殺されてしまったり、盗賊が宝を盗られたことに気づき・・・、アリババの家に"×"をつけて、頭を呼びに行くが、召使いモルギアナ(高木美沙)の機転で救われる・・・などのお馴染みのストーリーが、上手く3幕にまとめられていた。
アリババ役の石崎慎は、人の良さがにじみ出るようなダンサー。彼はなんと、 25歳でバレエを始めたそうだが、体の条件も良かったのだろうし、素直に努力を重ねたのだろう、今、バレエ歴は9年ということになるが、とてもそんなに遅くから始めたとは思えない踊り手だ。
アリババと行動を共にするロバ3頭は、池上彰朗、恵谷彰、佐藤航と踊りの技術の高い3人。茶のオールタイツをまだら模様にして、顔にメイクも施し、二本足で立つこと以外はロバそのもののようにリアル。その3人(3頭?)が、クラシックの基礎に裏打ちされた動きと演技力で、全幕を通して活躍しており、舞台を締めていた。
そして盗賊は40人の男性ダンサーたち、2幕の登場時、客席後ろからその人数が走り込んで来た時には、迫力の凄さにそれまでも舞台に引き込まれていたけれども、更に強く引き込まれた。そしてその中心、盗賊の頭は高岸直樹。さすがにスケールの大きな踊り、共に踊った群舞は圧巻だった。
女性の方もアリババの恋人アマーラの村田恵理は、穏やかな雰囲気で恋人役によく合っていたし、モルギアナ役の高木美沙は知的、3幕で踊り子に扮して、油商人に化けた盗賊の頭の高岸を挑発して踊る様はイキイキとして堂々、高岸の強さにも負けない個性を発揮していた。
また、町のシーンに出てくる蛇使い(奥村康祐)と蛇(安井遥子)も、奥村の滑らかで軽い踊り、安井の蛇そのもののような柔軟性たっぷりの踊りがなかなか良かった。
他、洞窟の中の宝石達の踊りや、祝宴の踊り子などの群舞も、よく技術を身につけたダンサーが多く美しかった。
(10月22日 大阪厚生年金会館大ホール)