イベントークPart15 ジャパン・ミュージック・コネクション:ジャン・サスポータス&齋藤徹デュオ

ワールドレポート/大阪・名古屋

唐津 絵理
text by Eri Karatsu

ジャパン・ミュージック・コネクション ジャン・サスポータス&齋藤徹デュオ

 ピナ・バウシュのソリストダンサーとして知られたジャン・サスポータスと、奇才コントラバス奏者、齋藤徹によるスペシャル・デュオに、愛知では、特別ゲストとして小鼓の久田舜一郎が加わった、豪華なコラボレーション公演が開催された。
 既存のジャンルにとらわれることのない3人ならではの、ジャンルを超えた名作に立ち会った、そんな心地よい後味を味わうことができた。
 2004年、来日したジャン・サスポータスは、失意の底にあったという。数々のデュオを行ってきた長年の友人のコントラバス奏者、ペーター・コヴァルドが亡くなってしまったからだ。そんなときに出会ったのが、日本のミュージシャンの齋藤徹。二人はすぐに共感し、出会いから2年を経て、ついに今回、本格的なデュオ・パフォーマンスが実現したという。
 幕開けは、ジャン、齋藤、久田によるフリー・インプロヴィゼーション『ケ・セラ・セラ=即興』。久田の小鼓の間を縦軸として、ジャンと齋藤のベースの音がその間を泳いでいくような緊迫した時間が経過する。即興とは思えないほどの完成度の高いパフォーマンスに、会場はこれから押し寄せてくる大波を待ち構える海のように静まりかえった。
 最初の本格的な作品『セキュリティ(Security)』では、ドイツ・ベルリンの壁が崩壊する前の、東ドイツの秘密警察の男を描いている。何事にも不確かなひとりの男が、自らの不安を人々にさらすように身体をよじる。ジャンの創作したダンスに、即興的に曲をつけていたペーター・コヴァルドとは異なり、予め作曲をして、ジャンと向き合う準備をしていたという齋藤。彼のベースの音がジャンの身体を駆り立て、さらに彼の不安が引き立たされる。ジャンの屹立した身体が強度を強め、舞台そのものが硬直していくかのようだ。
『ディーヴァ(歌姫、Diva)』では、ジャンは女装をして登場。前作の男姿から一転したその姿からは、時代遅れになってしまった歌姫の悲哀が読み取れる。俳優としても活躍しているジャンの立ち姿からは、創作された作品でも、人間性が滲み出ることの多いピナのダンサー特有の匂いがする。ピナの作品そのものが、ジャンをはじめとしたダンサーたちがいるからこそ成立する、つまりダンサーと共に創られているということなのだろう。
そして、久田の即興ソロから始まる作品『地から (Chikara)』。日本初演にして、3人のアーティストが初共演となる作品だったが、事前にほんの5分しか合わせていないとは思えないほどに完成度が高く、緊張感に包まれたパフォーマンスとなった。薄白い木綿を引き延ばし、洞窟のように作られた半円状のオブジェからその生き物は登場する。それは私たち人間が生まれてから、死んでいくまでの長く細い道のりなのだろうか。ゆっくりと這いつくばっては進みながら、しだいにからだを縛り付けているコルセット(セーターを粘土で固めて作られている)をも剥ぎ取って、最後は両腕を掲げ、天を仰ぎ見る。それはあたかも、地上に住む蝶の幼虫が、さなぎとなって、さらにその殻を破き、そして空へと飛び立つかのようだ。久田の小鼓の音色に、齊藤のコントラバスの旋律と、彼らの創り出す舞踏や能にも通ずるような静かな時間が、命のはかなさと強さ、そして厳しさを、観るものすべてに突きつけた。
最後のアフター・トークでは、出演者3人が登場し、それぞれの想いを語ったが、そこからは常に、お互いへの尊敬の念があることが読み取れる。昨今、様々なかたちのコラボレーションが流行しているが、1+1が2以上になるような競演は、それぞれのアーティストが一流であり、なおかつ、互いに敬意を持っている場合にのみ可能となるのではないだろうか、そんなことを感じさせる公演であった。
(2006年9月11日 愛知県芸術劇場小ホール)

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