高岸直樹演出振付による、野間バレエ団『くるみ割り人形』

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ
text by Atsuko Suzuna

野間バレエ団『くるみ割り人形』

 とても独創的で見応えのある『くるみ割り人形』だった。2004年の野間バレエ団『ドン・キホーテ』で初めて演出振付に挑戦した高岸直樹。二年ぶりに手掛けたのは『くるみ割り人形』。
 クララを野間景、王子を高岸直樹が踊り、音楽は稲垣宏樹指揮で大阪シンフォニカー交響楽団。
 バレエファンには見慣れたこの物語を、最初から最後まで登場人物が繋がっている・・・すべてはクララの夢だから?・・・と思わせる形にまとめたのが今回の演出。パーティに向かう客人たちにも、それぞれ性格がある。子供連れ家族のお父さんは酔っぱらっていたり、少年は本に夢中だったり、幸せそうなカップルあり、キザなカップルあり・・・そんな客人たちが、正装姿のまま、その性格のまま夜中にはネズミになり、2幕ではお菓子の国の住人になる。誰でも夢を見る時は、知っている人がとんでもない設定で出てきたりするものだが、そんな感じだ。
 なかでも、フリッツ(青木崇)は、ねずみの王様になり、お菓子の国では、泉野まゆこと共にスパニッシュを踊る。くるみ割り人形を壊し、騒音を立てるイタズラ好きのお兄ちゃんフリッツ、そのフリッツがクララにとって、ねずみの王様と重なっても不思議はない。青木の踊り自体も、さまざまなテクニックもこなして良かった。また、1幕に出てくる人形(コロンビーヌ・比嘉さおり)は、2幕でその衣裳のまま芦笛の踊りを北村俊介と踊るのだ。どちらもその繋がりが、とても自然に思えた。

野間バレエ団『くるみ割り人形』

 そんな演出だから、クララは眠りについたところからずっとナイティ姿。グラン・パ・ド・ドゥでも、チュチュではなくその姿のまま。このグランがまたとても良かった。ナイティのロングスカートが美しい範囲でしか脚をあげない振りはとても上品、野間はそれをしなやかにていねいに踊った。ヴァリエーションの間も相手は舞台にいて、目を合わせたり手を取りながら物語に忠実に。もちろん、高岸の王子は女の子の憧れをきちんと体現していた。金平糖のヴァリエーションは、空気と遊ぶように柔らかい振り。その中のマネージの前の部分で王子がクララの手にキスすると、円形に跳んで回って・・。キスされたトキメキがよく表現されて、音楽にも合っていて素晴らしかった。 特に高岸が振付した時は、男性のゲストダンサーたちの意識が一つになるのか、男性ダンサーによる力いっぱいの気持ちの良い踊りがたくさん。例えば、山口章、奥村康祐、桑田充、森充生、脇塚力による『トレパック』は、全員楽しそうでハツラツ、ジャンプは空中高くでよく揃っていた。
 そして、コール・ド・バレエも気持ちが一つになっていたようで、笑顔の優しい夢見る視線が『くるみ・・』の世界に引き込んだ。このバレエ団のコール・ド・バレエは年々、上達しているように思える。
(9月18日 堺市民会館大ホール)

野間バレエ団『くるみ割り人形』

野間バレエ団『くるみ割り人形』

野間バレエ団『くるみ割り人形』

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