ダンス・ミュージカル『クラリモンド』

ワールドレポート/大阪・名古屋

唐津 絵理
text by Eri Karatsu

ダンス・ミュージカルと銘打った新作舞台が名鉄ホールで開催された。
プロデューサーの笹部博司・演出家の栗田芳宏のコンビが、フランス・ロマン主義文学者のテオフィル・ゴーチェによる原作の舞台化に取り組んだ。話題はH・アール・カオスの大島早紀子の演出・振付への参加と、豪華な男性ダンサーたちの共演だ。

ダンス・ミュージカル『クラリモンド』

『クラリモンド』は、カトリックの若き聖職者ロミュオー(貴水博之)が、魔性の吸血女クラリモンド(安寿ミラ)の誘惑の虜となり、命がけでその愛に身を投げ出す物語で、2人の愛の軌跡を物語の核としながら、3体の悪魔と堕天使が様々な場面で登場し、彼らの内面を象徴させながら、ロミュオーを死の世界へと導いていく。悪魔を演じた舘形比呂一と森山開次は、一対をなす双子のように、舞台の両サイドでシンメトリーに踊り、妖しさを醸し出す。熊谷和徳は巧妙なタップのリズムで、不気味な世界の足音を響かせた。
 鉄骨組みされた舞台装置の鉄柱に絡みついた男女6名のダンサーたちの肉塊は、死を暗示しているように不気味に揺れる。悪魔たちはロミュオーとクラリモンドを嘲笑うかのごとく、鉄棒にぶら下がっては飛び降り、闇の中を走り回った。

ダンス・ミュージカル『クラリモンド』

地下楼の闇に満ち溢れる愛と死の狂気。大島のエネルギー力学に基づいた動きの連鎖は、男性ダンサーではさらに強い磁気を放ち、舞台全体にパワーをみなぎらせていく。
森山の空を貫く強靭かつ鋭利な身体、舘形の身体そのものが内包する表現力、そして熊谷のアンニュイなリズムを放つ危険な存在感。すでにそれぞれの世界で活躍中の3人のダンサーも、大島の磁力を得てさらに強い個性を発揮し、新たな魅力を醸し出した。

激しさを増していくダンサーたちと対照的に、静の中にエネルギーを凝縮していったのは、ロミュオーとクラリモンド。主役の安寿ミラは、その強い存在感で、貴水博之は端正な風貌と歌唱で、煮えたぎるような内面の激しさを表現した。

演出の分担や、各場面をつないでいく語りの介入により、部分的には場面ごとの分断の印象も免れないが、演出家の強い希望で参加した大島の美学はここでも健在で、その美学を徹頭徹尾貫き、19世紀ロマンの幻想世界の真髄を今日に甦らせた。
(5月29日 名鉄ホール)

ダンス・ミュージカル『クラリモンド』

ダンス・ミュージカル『クラリモンド』

ダンス・ミュージカル『クラリモンド』

ダンス・ミュージカル『クラリモンド』

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