「バレエ&オーケストラの饗宴」~矢上恵子振付『展覧会の絵』ほか

ワールドレポート/大阪・名古屋

桜井 多佳子
text by Takako Sakurai

 振付家矢上恵子が、ムソルグスキー作曲『展覧会の絵』全曲に取り組んだ。
 コンクール出演者へのソロや、彼女率いるK★チェンバーカンパニーが踊る中規模以上の群舞など、見ごたえたっぷりの作品を多く発表している矢上。振付作品はすべて、衣裳や美術プランはもちろん、音楽構成も彼女自身が手がけている。そして、その音楽構成こそが、そのまま彼女の振付を生み出す核となっている。だが、今回の『展覧会の絵』は、自身の振付用にアレンジすることなく、ムソルグスキー音楽、ラヴェル編曲のオーケストラ版全曲に忠実に振付けた。
指揮は、バレエ音楽のスペシャリスト堤俊作。大変贅沢で、かつ実験的ともいえるこのような企画が実現できたのは、この公演が、「第21回倉敷音楽祭」の一環行事であったからであろう。総監督、後藤田恵子の慧眼には敬意を表したい。

『展覧会の絵』

『展覧会の絵』

『展覧会の絵』

 3月21日、倉敷市民会館で行われた初演(一回公演だけだったのが、非常に残念)は大成功だった。出演者は、K★チェンバーカンパニーと男性ゲスト、そして地元の、倉敷舞踊アカデミー★ワンディカンパニー。K★チェンバーカンパニーのメンバー17人は、矢上の教え子であり、全員が、クラシック・バレエもコンテンポラリーも踊れるダンサー。藤岡あや、金子紗也、吉田千智、上田尚弘ら、様々なコンクールでも実力を認められた者が集まっている。
 大きな額縁のようなセットが組まれた舞台で、倉敷管弦楽団の演奏とともにダイナミックでドラマティックな「展覧会」が上演された。観客は美術館の回廊を巡るかのよう。冒頭『プロムナード』に登場した"ワンディカンパニー"ソリスト、岡田吉加、小野博史、田中葵、松岡希美の4人は、その案内人にも思えた。「古城」や「サミュエル・ゴールデンベルグとシュミュイレ」は、見るものに様々なストーリーを想像させ、「カタコンブ」は、何かを訴えかける。矢上作品には珍しく女性たちはトゥシューズで踊り、ときにクラシックな雰囲気、あるいは鋭角的な動きを構築していった。
小学校3年生から中学一年生までの"ワンディカンパニー"が大活躍したのは、「卵の殻をつけたひな鳥の踊り」。頭に殻をかぶり、ランドセルを背負った姿で、総勢16人の小さなダンサーが踊るのは圧巻。演奏効果を高めるように足音をたて、矢上独自の複雑な振付をこなしていた。全国巡回を行うに値する、ユニークな「展覧会」だ。

『展覧会の絵』

『展覧会の絵』

『展覧会の絵』

『展覧会の絵』

『ドン・キホーテ』 鈴木佑子、新井崇

ドン・キホーテ』
鈴木佑子、新井崇

 なお、『展覧会の絵』は第2部で、その前の第1部では、「バレエ音楽集」として、『コッペリア』や『白鳥の湖』が、オーケストラ演奏とともに上演された。出演は、倉敷舞踊アカデミー★ワンディカンパニー。コール・ドに至るまで、素直な踊りが心地よかった。第1部を締めくくったのは、ゲスト、鈴木佑子と新井崇の『ドン・キホーテ』。新井が直前に怪我をしたため、男性ヴァリエーションを抜いた構成ではあったが、二人とも落ち着いた演技を見せていた。

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