日本人ダンサーによるマーサ・グラハム作品上演

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ
text by Atsuko Suzuna

「温故知新」と名付けられたこの公演。「マーサ・グラハム・メソッドを識る・観る・学ぶ」ということで、この劇場アルティ付属のアーティスト集団アルティ・アーティスト・プロジェクト(A.A.P.)のメンバーたちが、夏からグラハム・メソッドの習得に挑戦し行われた。
 そのワークショップの指導から、再振付・監修を行ったのは、アルティ・アーティスト・プロジェクトブヨウ部門の芸術監督、望月則彦氏の長年の友人であり、NYのグラハム舞踊団プリンシパル・ダンサーの折原美樹。

 公演では、まず望月則彦振付の『祈りの人』~グラハム賛歌が上演され、つづいて「グラハムを識る・学ぶ」ということで、折原美樹が、バレエの歴史からグラハム作品についてや、そのメソッドについてA.A.P.メンバーによるデモンストレーションを交えながらレクチャー。そして最後に「グラハムを観る」ということで、マーサ・グラハムの3作品が上演された。

 通して感じたのは、"身体をつくってこそ、表現できる"ということ。当日配布されたパンフレットの中の望月の言葉にも同様の内容が書かれていてうなずいたのだが、"今流行のモダンダンスやコンテンポラリーと称するものの中には、自身の基礎的な肉体トレーニングも無く、「自由に表現する事」のみに捕らわれているものが多く見られるが(続く)"・・・という記述。

 クラシック・バレエはすべてのダンスの基礎だろう。だが、クラシックの形に捕らわれすぎていては新しい創作に踏み出しにくい。そんな次の段階の"身体の使い方"を論理的に組み立てているのが"グラハム・メソッド"と言えるのだろう。折原はレクチャーの中で、そのあたりのことを分かりやすく説明してくれた。「基礎がなければ崩すことも出来ない」「身体は嘘をつかない」などの言葉が重く私の中に入ってきた。

 上演されたダンスの方、望月則彦振付の『祈りの人』~グラハム賛歌は、シスターの服装の女性ダンサーたちによる、敬虔な作品。変化に富んだソロも含みクラシック・バレエの基礎を持ったダンサーだからこその身体のラインを活かした美しいものだった。

 グラハム作品はまず『CELEBRATION』。これは、ちょっとおちゃめな感じすらする喜びの表現。続いての『SATYRIC FESTIVAL SONG』は折原美樹がソロで踊った。マーサが自分自身をからかったものということ。長い黒髪の揺れとコミカルな表情がクルクルと移り変わる楽しさ。震えたりコケたり、既成概念に捕らわれない動きのおもしろさを満喫できた。最後は『STEP IN THE STREET』、戦争を意識した作品。ダンサーたちの思いが湧いてくるような表情がまず良かった。思い切った身体の使い方に、グラハム・メソッドに取り組んで短期間ながら、それなりのものを得ているダンサーたちが頼もしく思えた。
(2月19日 京都府立府民ホールアルティ)

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