宮下靖子追悼公演『宮下貢介・靖子に捧げるパ・ド・ドゥ』と『くるみ割り人形』

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ
text by Atsuko Suzuna

 今回の宮下靖子バレエ団クリスマス公演は、学園創立50周年記念公演であると同時に、2005年3月に亡くなった宮下靖子の追悼公演でもあった。
 その追悼の思いを込めて創られたオリジナル作品が、深川秀夫振付の『宮下貢介・靖子に捧げるパ・ド・ドゥ』。貢介は靖子の夫。アダージオ、貢介ヴァリエーション、靖子ヴァリエーション、コーダからなるグラン・パ・ド・ドゥ形式。宮下靖子の長男で作曲家の宮下和夫が、作曲を担当すると共に、舞台上でのピアノ演奏を行った。踊ったのは長年このバレエ団のプリマをつとめた原美香とアンドレイ・クードリャ。

 幕開け、ピアノに寄り添い、まるでピアニスト、宮下和夫と踊り出しそうな雰囲気の原美香。落ち着いた美しい曲をしなやかな上半身を活かして踊る。続く2曲のヴァリエーションと最後のコーダは、どれも明るく軽快でチャーミング。追悼の演目でこの軽快さに意外な気が一瞬したが、すぐに「そうか、この弾むような感じは、宮下靖子の"踊る喜び、音楽に身を任せる喜び"を現しているんだ」と気づいた。生前いつも「技術と踊る心は両輪、両方大切」と話していたという靖子の"踊る心"を表現したバレエ---長く、このバレエ団で踊り継いでいってほしい。

up06.jpg

up07.jpg

up08.jpg

 そして続いては、このバレエ団ではもう20年に渡って上演し続けているハンス・マイスター振付の『くるみ割り人形』。まず色彩的に素晴らしく、深みがあることがいい。西洋の質の高い絵画や映画のような色彩的な深み。舞台大道具小道具にも細かい工夫が凝らされ、衣裳はひとつとして同じものがないという・・・照明は決して明るすぎることがなく、夢の世界に誘う。そんな総合芸術としての丁寧な作り方がしっかりと生きていた。

 またダンサーも良い人が多く、まず目に付いたのは雪の女王の鈴木祐子、テクニカルな動きも落ち着きをもって美しくこなす人。金平糖の精の井澤照予は、現在中国の上海戯劇学院に留学中。手足がきれいで、素直に力が抜けた踊りが良い。ディヴェルティスマンもそれぞれ良かったが、特に印象深いのはアラビアの中心、中西孝子。スタイルがよく、大人の魅力が感じられた。
 花のワルツは薄布を花びらのように重ねたスカート、微妙なグラデーションの色違いの花たちが舞う様子がとても美しかった。
(12月23日、京都会館第1ホール)

up09.jpg

up10.jpg

up11.jpg

ページの先頭へ戻る