アート・バレエ難波津バレエ・バレエスクール10周年公演『リーズとコーラスの恋』

ワールドレポート/大阪・名古屋

桜井 多佳子
text by Takako Sakurai

アートバレエ難波津「ラ・フィユ・マルガルテ」

 アート・バレエ難波津バレエ団は、法村友井バレエ団でプリマ、さらに名指導者として長く活躍した石川惠己が平成7年に設立。その10周年記念特別公演が11月27日、大阪厚生年金会館大ホールで行われた。プログラムは『ラ・フィユ・マルガルテ』をもとにした『リーズとコーラスの恋』(演出・改訂振付=石川愉貫)。

 物語の中心は、もちろんリーズ=谷吹知早斗とコーラス=石川愉貫で、彼らを軸にドラマは展開していくが、真の主役は、なんといってもシモーヌ(リーズの母親)役の石川惠己だった。舞台に登場しただけで、観客の目を一気に集める「華」を持つ舞踊家。娘リーズへの愛情の深さと厳しさ、娘のカレシ=コーラスへの複雑な心理、リーズの友人たちへの優しい面持ち、そしてトーマス&アラン父子への多少の欲が絡んだ、かけひきなど様々な感情を豊かに的確に表現し、その状況も含めて観客に伝えた。それだけではなく、リーズの友人たちと踊ったり、さらにソロで得意のスパニッシュも久々に披露した。そのフォームの確かさと後方客席に届かせるような視線の強さ。何気ない立ち居振る舞いの隙のなさ。周囲のダンサーたちは、「舞台人」として彼女に学ぶことは多々あったのではないだろうか。

アートバレエ難波津「ラ・フィユ・マルガルテ」 

 ただしかし、彼女が、たとえば『ジゼル』の母、『白鳥の湖』の王妃などに扮して登場すると、必要以上にその役がクローズアップされてしまうという現象も起こっていた。つまり、ジゼルやオデット/オディール以上にその母や王妃が目立ってしまうのだ。それは仕方ないとはいえ、全幕公演となるとやはり、おかしい。だが今回の『リーズとコーラスの恋』では、シモーヌ=石川惠己への脚光はとても自然だった。舞台上では石川惠己が最も輝きを放っていながら、物語の主役は、あくまで若い二人(リーズとコーラス)。石川愉貫の演出は、そういう意味でも非常に巧みだった。プログラムに謳ってはいないが、今年は、石川惠己の舞踊生活60周年。この『リーズとコーラスの恋』は、子息、愉貫からの感謝と尊敬を込めたプレゼント、と同時に若い振付家の手による、ベテラン舞踊家のための創作作品であったわけだ。

 周囲のダンサーも、その作品の意味を熟知していたようす。谷吹は、安定したテクニックと明るいキャラクターでリーズ役を明るく演じながら、シモーヌ=石川惠己が中心となる場面では、瞬時に自らの存在を目立たなくする。その心遣いとマナーは気持ちよかった。ゲストも豪華で、アラン役の野上典之のコミカルな演技は冴え、その父、トーマス役、小原孝司は、農園主の裕福さを納得させた。奥村康祐ら若手ダンサーの活躍も頼もしい。あらゆる面で意義深い10周年記念特別公演だった。

アートバレエ難波津「ラ・フィユ・マルガルテ」

アートバレエ難波津「ラ・フィユ・マルガルテ」

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