珍しいキノコ舞踊団ー草上の饗宴ー

ワールドレポート/大阪・名古屋

唐津 絵理
text by Eri Karatsu

珍しいキノコ舞踊団ー草上の饗宴ー

 トヨタ自動車の一部門が、話題の超高層ビル・ミッドランドスクエア内へ移転するなど、名古屋駅周辺の大開発が相続いている。周辺に所狭しと立ち並ぶオフィスビルは、機能性、安全性に優れた次世代のビジネス空間として、さらにそこに超有名ブランドが勢ぞろいしたことで、大きな付加価値となるファッショナブルな商業施設を伴い、日本の中心から世界へー日本の技術と文化を発信することをコンセプトに、東海地方の新しい名所となっている。
 そんなオフィスビルの中でも、今年1月にオープンしたばかりのルーセントタワーにて、ゴールデンウィークの3日間、「芸術の広場に変身」、をキャッチコピーとした「第1回ルーセントアートフェスター草上の饗宴ー」が開催された。なかでも4月28日は、日本を代表するコンテンポラリー・ダンスカンパニーの珍しいキノコ舞踊団のパフォーマンスが開催されるとあって、普段はクールな顔をしているオフィスのエントランスが一転、ほんわかと緩んだ空間へと「変身」したのだ。
 パフォーマンスのはじまりは、名古屋駅から会場となったルーセントタワーに続く地下街。ミニムプラプラというアーティストが制作した影をモティーフにした作品が、地下街の壁や天井に貼り付けられている。影絵は、犬や猫といった動物から魚や鳥と、海、地上、空に住む、さまざまな生物たちだ。地下街の生き物たちの不思議な世界へと解き放たれたかのように、パッと広がっては一斉に踊り始める珍しいキノコ舞踊団のダンサーたち。緩やかな時間の流れの中で、たゆたうように進みながら、パフォーマンスのメイン会場であるタワーのエントランスまで向かっていく。

珍しいキノコ舞踊団ー草上の饗宴ー

 エントランスに到着すると、まずビルの正面玄関前の芝生に驚く。芝生は活躍中の若手フラワーアーティスト東信(あずままこと)の作品だ。エントランスの中央に幅3M 、長さ20Mもの芝生が敷かれ、さらにその上に、芝生を丸めたベンチが、また芝生の両脇には、真っ白な花で作られた丸いオブジェが置かれている。
さらに芝生の上には、机や椅子、それは今か今かとキノコたちに遊ばれるのを待っているかのように置かれた家具たちだ。ゆっくりと芝生にあがり、そこで踊りはじめるダンサーたち。しかし、彼女たちの提示するのは、まるでピクニックにいってくつろいだり、時にはしゃいだりしている少女たちのように、極めて自然体な身体だ。もちろん本当に自然体なのではなくて、ナチュラルに魅せてしまう彼女たちのダンスが凄いのだ。机や椅子など日常的なものと、身体の関係を遊びつつ探っているうちに、気がついてみるといつの間にかダンスへと滑り込んでいる。でもそれは、日常的な動きがダンスになったのではなく、実は、日常にはダンスが溢れていることを私たちに気がつかせてくれるものなのだと思う。
こうした屋外でのパフォーマンスこそ、キノコたちのダンスの凄さに気がつく貴重な機会だ。多分コンテンポラリー・ダンスなんて初めて観る観客ばかり。その観客たちの多くが、ワクワクして、彼女たちと一緒に踊りたくなったとしたら、それこそダンスが、私たちみんなの身体から立ち上がっている証拠なのだから。

珍しいキノコ舞踊団ー草上の饗宴ー

珍しいキノコ舞踊団ー草上の饗宴ー

珍しいキノコ舞踊団ー草上の饗宴ー

(2007年4月28日、名古屋ルーセントタワー)

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