第34回バレエ芸術劇場『バヤデルカ』

ワールドレポート/大阪・名古屋

桜井 多佳子
text by Takako Sakurai

「バヤデルカ」1幕 山下磨耶(ニキヤ)、小原孝司(大僧正)

1幕 
山下磨耶(ニキヤ)、小原孝司(大僧正)

多くのスターダンサーを輩出している関西には、次世代のスター・ダンサーも次々に育ってきている。日本バレエ協会関西支部主催『バヤデルカ』公演は、それを実感させてくれた。

主役ソロルは大阪バレエカンパニー所属の青木崇。2000年、第一回大阪プリ・クラシックバレエコンクール ジュニアの部で優勝したときには、ゲスト審査員ルジマトフが、彼の将来性を高く評価していた記憶がある。その後ワガノワ・バレエ学校を経てリトアニア国立バレエで活躍、現在は地元に戻り活動している。均整のとれたスタイルを持ち、ノーブルな役が似合うダンサーだ。演技がとても自然で、ニキヤへの恋も、ガムザッティへの一瞬のときめきも、さらに幻影の場でのニキヤへの深い愛情も、踊りにこめて表現し得た。コンクールなどで男性ダンサーがこぞって披露する第二幕のヴァリエーションでは、ダイナミックな跳躍などテクニックの冴えを見せながら、あくまで全幕のなかの一部分であることをわきまえて演じていた。

ニキヤ役は、同じく大阪バレエカンパニー所属の山下摩耶。早くからその実力を認められていて、若手ながら同劇場公演でも数々の主役を踊っている。いままでは教科書通りの、きっちりした踊りが、「模範生」「優等生」的な域を出なかった感があったのだが、今回は完全に脱皮、プリマとして全幕を牽引していった。何より彼女の演技で評価したいのは、ニキヤの女性としての成長や変化を鮮やかに描いていたこと。最初に登場する場面のニキヤは、愛らしい少女だ。たとえば、ニキヤ役の名演で知られるボリショイ・バレエのグラチョーワやマリインスキーのマハリナなどは、冒頭から、プリマのオーラをまとうように登場していた。その印象が強いため、山下の姿は幼く見えたが、考えてみれば、寺院の踊り子=バヤデルカは、純情な少女であるはず。一途にソロルを信じる少女だから、とっさに恋敵ガムザッティ(楠本理江香)を切りつけてしまいそうにもなるのだ。

「バヤデルカ 2幕  恵谷彰(神々)

2幕 恵谷彰(神々)

「バヤデルカ」 2幕 内藤夕紀(マヌ)

2幕 内藤夕紀(マヌ)

ソロルとガムザッティの結婚式で踊るソロでは、~深い悲しみの中で踊りはじめ、ソロルからだという花かごを受け取るや一転、幸せな表情を見せ、しかし、そこに忍ばせてあった毒蛇にかまれて死ぬ~というドラマを見事に表現した。テクニックは、「模範生」のよう、それに、なんとも言えない情感がこめられていた。一幕の、あの恋する喜びにあふれていた少女が、こんな無残な最期を迎えた---それは、観客により大きなインパクトを与えていた。そして次の幻影の場では、崇高さを感じさせた。山下にとってこの作品は、転機になったのではないだろうか。次回の舞台が今から楽しみだ。
いわゆるブロンズ像役は恵谷彰。その確かな技術はメカニックな美しさを放っていた。マヌ役の内藤夕紀は音楽性豊かで愛らしく、幻影たちのソリスト、安積瑠璃子、堀端三由季、松本真由美は3人ともスタイルが美しく、アカデミックな演技を見せていた。河崎聡指揮、関西フィル。

「バヤデルカ」 2幕 楠本理江香(ガムザッティ)、青木崇(ソロル)

2幕 楠本理江香(ガムザッティ)、青木崇(ソロル)

「バヤデルカ」  3幕 山下麻耶のニキヤ、青木崇のソロル

3幕 山下麻耶のニキヤ、青木崇のソロル

(1月27日、フェスティバルホール)

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