松岡伶子バレエ団公演『シンデレラ』

ワールドレポート/大阪・名古屋

唐津 絵里
text by Eri Karatsu

 東海地域を代表するバレエ団のひとつ、松岡伶子バレエ団が、秋の本公演に選んだ作品はいつの時代も少女たちを夢中にさせてきた夢物語『シンデレラ』。振付は、キーロフ劇場で数々の振付を行ってきたナターシャ・ボリシャーコワとワジム・グリャーエフのコンビだ。1945年の初演と同じセルゲイ・プロコフィエフの音楽によるこの作品を、竹本泰三指揮のセントラル愛知交響楽団の生演奏で見ることができるのも、その場に居合わせた人にしか味わえない「バレエ」の醍醐味だろう。

松岡伶子バレエ団 『シンデレラ』(26日)

松岡伶子バレエ団
『シンデレラ』(26日)

 26日のシンデレラは加藤奈々(25日は松原帆里)、王子は大寺資二(25日は窪田弘樹)、仙女は伊藤優花(25日は酒向悠江)という配役で、主要な役は完全なダブルキャスト。豊富な人材を抱えたバレエ団だからできる考え抜かれた配役だ。
 陰湿なイジメに耐える、けな気なシンデレラと、重く演じるとリアリティがありすぎるイジメを、あえてユーモラスに演じる姉たち(大脇衣里子と松本千明)の対比が鮮やかだ。
加藤奈々は、今どき稀有な純真さを感じさせるダンサーで、はかないシンデレラを好演。最近様々なキャラクターも演じて、俳優としての存在感もみせているベテラン大寺資二は、いまだ、ダンスノーブルとしても健在であることを示した。仙女の伊藤優花は、優美なラインの美しさに加えて、その佇まいでも一層の輝きを増し、シンデレラを救う重要な役柄を印象づけた。
  シンデレラがかぼちゃの馬車にのって出発する場面では、春・夏・秋・冬の精を、安藤有紀や早矢仕友香といった主役級のダンサーたちが日替わりで踊り、ひとつひとつの場面に見せ場を創っている。
さらにこのバレエ団のもうひとつの特徴は、見事に揃ったコール・ド・バレエだ。今回の公演では、小学校4年生以上の選抜メンバーも出演していたが、幼さが残りはするがさすがに鍛えられていて、発表会とは異なる緊張感を感じさせていた。

松岡伶子バレエ団 『シンデレラ』(25日)

松岡伶子バレエ団
『シンデレラ』(25日)

松岡伶子バレエ団 『シンデレラ』(26日)

松岡伶子バレエ団
『シンデレラ』(26日)

  妖精や、時間を知らせる時計の精、こおろぎなどなどでは、すんなりとした肢体をもち、かつテクニックを身につけた数名の若手バレリーナの踊りに目が惹きつけられた。今後のバレエ団を背負って立つバレリーナの卵たちも着実に育っていることが強く感じられた公演だ。
  また王子がシンデレラを世界中探しまわるシーンや宮廷の場面などで、舞台の前方と後方をスクリーンで仕切って、空間ごとに踊りを展開させたり、ラストのシンデレラと王子が結ばれる場面では、2人がゴンドラに乗って上っていく演出で締めくくり、奥行きや高さという愛知芸術文化センター大ホールの特徴を十分に活かすことによって、バレエのスペクタクル性という点からも成果をあげていた。
(2006年11月26日・愛知県芸術劇場大ホール)

ページの先頭へ戻る