「愛と生」と「死の暗示」を際立たせた吉見ゆうこ引退『ロメオとジュリエット』
- ワールドレポート
- 大阪・名古屋
掲載
ワールドレポート/大阪・名古屋
- 唐津 絵理
- text by Eri Karatsu
演出・振付:ベン飯田『ロメオとジュリエット』
ゆうこ・バレエスタジオ創立15周年記念公演
吉見ゆうこの現役引退記念にして、バレエスタジオ創立15周年記念のバレエ公演が開催された。『ロメオとジュリエット』の上演での引退が夢だったと語る吉見の意気込みに負けない、配慮の行き届いた舞台を繰り広げた。
シェークスピアの同題名のこの作品では、妖精や鳥が主役の古典バレエとは異なり、人間、つまりダンサー自身の経験に裏付けられた内面性とそれを支える演技力が重視されるだろう。吉見の演じたジュリエットは、両家の対立に翻弄されながらも、けな気にロメオを思い続ける若き乙女の姿をまっすぐに演じていて好感がもてた。ロメオのアンドレイ・クードリャも一途で無防備な若い青年のあり様を活き活きと表現し、吉見との息の合ったパートナーシップを見せた。
全体は3部構成で約2時間に短縮したとあって、複雑なシェークスピアの物語はよりシンプルでストレートに展開する。特に中盤の名場面では、盆舞台上に「バルコニーの告白」の場面と、約束を交わした「教会の祭壇」を背中合わせに作りこみ、2人の「愛と生」と「死の暗示」の両面を象徴させている。この盆回しの演出は、主人公が2つの世界を瞬時に行き来する様を、観客は上から覗き見しているように感じられて興味深かった。
マキューシオの梶田眞嗣をはじめ、ベンヴォーリオの窪田弘樹、ティボルトの大寺資二はいずれも強烈な存在感でシェークスピアの物語を支え、ドラマティクな作品の展開に貢献していた。
東海地方のバレエ団がプロコフィエフ作曲の『ロメオとジュリエット』をオーケストラと共に上演するのは本公演がはじめてという。稲垣宏樹指揮の中部フィルハーモニー交響楽団が演奏し、途中弦に弱さを感じる場面もあったが、ライブ演奏によって総合芸術であるバレエの本質を演出するのに効果的であった。
(2010年11月23日 愛知県芸術劇場大ホール)
[ジュリエット] 吉見優子
[ロメオ] アンドレイ・クードリャ(A&Sバレエ教室)
[マキューシオ] 梶田眞嗣(Vancouver Goah Ballet Company)
[ベンヴォーリオ] 窪田弘樹(松岡伶子バレエ団)
[ティボルト] 大寺資二(松岡伶子バレエ団)
撮影:杉原一馬