観客の心の中へダイレクトに接触を試みるコンタクト・ゴンゾ

ワールドレポート/大阪・名古屋

加藤 智美
text by Satomi Kato

コンタクト・ゴンゾ/ゲスト:梅田哲也、姫野さやか『non title』

あいちトリエンナーレ2010

愛知県では、大規模な国際展覧会として第1回目となる『あいちトリエンナーレ2010』を開催した。『あいちトリエンナーレ201』の大きな特徴は、パフォーミング・アーツ部門の充実や、美術との境界領域を越えた「複合的」な作品を取り上げている点だろう。それに加え、観客へのアプローチもさまざまに工夫されている部分についても注目したい。
これまでパフォーミング・アーツや先端的なアート作品に親しむ機会の少ない人にとって、劇場に足を運ぶことだけでも大きなハードルになる。

コンタクト・ゴンゾ「non titled」 撮影:上田和則

『あいちトリエンナーレ』のパフォーミング・アーツの会場となったのは、主に次の3ケ所([1]劇場 [2]美術館の展示室 [3]街中)だが、こうした場所を変えるという工夫が、パフォーミングアーツに親しみを持たせ、さまざまな観客とパフォーミング・アーツとの出会いの幅を広げたことは間違いないだろう。

そんな中で、今回紹介するのはコンタクト・ゴンゾだ。彼らは、大阪を活動拠点にする4人の男性ユニットで、そのパフォーマンスはかなり独自。コンタクト・インプロビゼーションというダンスメソッドは、身体の一部を互いに接触(コンタクト)しながら、1人では実現出来ない動きを展開していくのが基本だが、彼らのダンスは接触(コンタクト)行為を非常に激しいものへと変化させている。ゆったりと相手に身を添わせるのではなく、ぶつけ合ったり、蹴り上げたりといった動きは、時に「殴り合い」と称される。彼らは、気持ちの中で「押す」と「殴る」をイコールにすることで、感情が表情となってアウトプットされることがなくなると語っているが、実際にもパフォーマンス中の表情はほとんど変わらない。「殴り合い」ともみえる一連の行為の裏には、もちろん信頼関係が築かれているだろうと思う。しかし、彼らが互いの身体をぶつけあい、発する鈍い音には「肉体の存在」というリアルさを感じずにはいられなかった。会場では、鈍い音に反応して思わず小さな声を上げる人や、身体が動いてしまう人を見かけたほどだ。

コンタクト・ゴンゾ「non titled」 撮影:上田和則

コンタクト・ゴンゾのパフォーマンスは、3日連続で行われ、2日間は梅田哲也、姫野さやかとのコラボレーションだった。初日は梅田とのコラボレーション。「今まで誰もやらないような場所でパフォーマンスをしたい」という理由で選ばれた愛知芸術文化センターのバックヤードには、大量のダンボールと紐で吊り下げられた新聞紙と台車、照明には工事用の白色ライトが置かれていた。無表情で一人ダンボールを積み上げそれを移動させる梅田と、彼と彼の作品に全く干渉しないゴンゾ。どのように関わるのかと思っていたが、最後にダンボールをお互いに投げつけ、潰し、暴れまわった後、梅田が運転する車で去っていった。

2回目のコラボレーションは、姫野さやか(ドラマー)と。途中で場内が暗くなった次の瞬間、耳をつんざくような激しいドラムが響き、会場の空気が一変したのがわかった。激しいドラムの音は、観客の耳だけでなく身体そのものに伝わってくるが、この激しさは、コンタクト・ゴンゾが私たちに与える印象を増幅させているようにも思えた。
コンタクト・ゴンゾが作りだす「コンタクト」とは、彼ら自身のぶつかり合いだけでなく、観客の心の中へダイレクトに接触を試みる行為なのではないだろうか。
(2010年9月18日~20日 愛知芸術文化センター搬入口B)

コンタクト・ゴンゾ「non titled」 撮影:上田和則

コンタクト・ゴンゾ「non titled」 撮影:上田和則

撮影:上田和則

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