小劇場で新作バレエを上演、バレエスタジオ・エム・ドゥ

ワールドレポート/大阪・名古屋

唐津 絵理
text by Eri Karatsu

バレエスタジオMdeux ダンスパフォーマンス

演出・振付・音楽構成:原田みのる『勿忘草』『transform』
振付:松原扶佐子『Symphony in G』『Piano Suite』

バレエスタジオ・エム・ドゥによるダンスパフォーマンスが愛知県芸術劇場小ホールで行われた。わずか二百数十名ほどの客席のブラックボックス型の実験劇場を会場にして、このようなバレエ公演が開催されることは珍しく、その挑戦的な公演を楽しみに会場に向かった。
エム・ドゥは、マーサ・グラハム舞踊団の折原美樹、ホセ・リモン舞踊団などで活躍していたスティーブン・ピアと過去2回にわたってアメリカン・モダンダンスの流れを汲む振付家を招いて作品を発表してきた。今回は、島崎徹などの作品を踊りながら、2008年よりフリーランスとして活動を行っている原田みのるをゲストに迎えた。原田はシルク・ド・ソレイユのポテンシャルアーティストに認定されるとともに、新潟市のレジデンシャルダンスカンパニーNoismに所属し、朝日舞台芸術賞舞踊賞&キリンダンスサポートW受賞作品した『Nameless Hands 〜人形の家』全国ツアーに参加した経験もある実力派ダンサーだ。

最初の2作品は、バレエスタジオ・エム・ドゥの主宰者のひとり、松原扶佐子の振付によるもの。『Piano Suite』は、ドビュッシーとヴィラ・ロボスのピアノ曲に合せて、見るものが各々の物語を自由に紡ぎだすことのできる抽象的な動きが続くシンフォニック・バレエ。ベージュのワンピースを着た6名の女性が交互にソロやアンサンブルで登場し、爽やかな踊りをみせた。『Symphony in G』は、シンフォニック・バレエの形式にちょっとコミカルな動きを組み合わせたキリアン風の美しくもユニークな作品。コケティッシュな振付をダンサーたちが十分に自分のものにしているとは言いがたく、ユニークな踊りがややこなれていないような印象に映ったのは少々残念だった。

バレエスタジオ・エム・ドゥ『Piano Suite』 写真:むらはし和明

後半は、原田みのるによる振付が2作続いた。『transform』は、原田と植杉有稀による濃厚なデュオ。2人の男女が求め合いながらも、最終的には分かり合えない心の痛みをじっくりと時間をかけて見せている。深い身体の闇へと向かう創作プロセスの中に原田のダンスへの真摯な思いが伝わってくるようだ。切れのよいマイムや、パルスが刻むサウンドに合せたヒップホップ的な素早い動き、そしてNoismで鍛えられたコンテンポラリー、原田のもつダンサーとしてのすべてをさらけ出すかのようなダンス。そしてまた、パートナー役を務めた植杉のまさに体当たりの熱演も光った。

バレエスタジオ・エム・ドゥ『勿忘草』 写真:むらはし和明

最後の作品『勿忘草(わすれなぐさ)』は、生と死に向き合うためにダンスをしているという原田がイノチをくれた母親に向けて創作をしたという母へのオマージュだ。原田が母の姿と重なったというエム・ドゥの水谷訓子が、ゆりかごに揺られて登場。勿忘草の物語は、恋人のために岸辺に咲く花を摘もうとした恋人が誤って川に飲み込まれた中世のドイツの伝説に基づいているという。
「私を忘れないで!」という若き少女の心を届けるのは、エム・ドゥに通うフリーの女性ダンサー16名。

洗いざらしの真っ白な木綿のワンピースに身をつつんだ彼女たちは、バレエの動きを生かしながらも等身大の少女らしい動きを取り入れた原田の振付に全身で取り組んでいる。松原の照明も効果的で、少女の純白の心を多様なアンサンブルで表現してみせた。死に立ち向かう切ない『勿忘草』、死に直面してもなおまっすぐに立ち向かおうとする少女たちの姿と、コンテンポラリーの新しいヴォキャブラリーにも果敢に取り組む今のダンサーたちが重なってみえるようで、切なくも優しい気持ちになれる作品であった。
(2010年5月8日 愛知県芸術劇場小ホール)

バレエスタジオ・エム・ドゥ『勿忘草』 写真:むらはし和明

バレエスタジオ・エム・ドゥ『勿忘草』 写真:むらはし和明

バレエスタジオ・エム・ドゥ『transform』 写真:むらはし和明

バレエスタジオ・エム・ドゥ『Symphony in G』 写真:むらはし和明

写真:むらはし和明

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